第57回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-6] 一般演題:地域 6

Sat. Nov 11, 2023 12:20 PM - 1:30 PM 第2会場 (会議場A1)

[ON-6-6] 地域在住高齢女性における自動車運転の経験と認知機能の関連

赤井田 将真1,2, 白土 大成1,3, 木内 悠人1,4, 立石 麻奈2, 牧迫 飛雄馬2 (1.鹿児島大学大学院保健学研究科, 2.鹿児島大学医学部保健学科, 3.JCHO熊本総合病院リハビリテーション部, 4.国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター予防老年学研究部)

【序論】高齢女性は高齢男性に比べて認知症の有病率が高いことが世界的に報告されている(WHO. 2022).認知症予防のためには,認知症発症以前からの適切な支援が求められる.自動車運転では,複雑かつ複数の課題に同時に対応することが求められ,認知機能の賦活のために重要な活動のひとつである.近年,高齢期に自動車運転を中止することは,生活空間の狭小化を助長し,認知症の発症リスクを高めることが示唆されている(Choi, et al. 2014).高齢女性は高齢男性に比べ,自動車運転免許の保有率が低く(警察庁.2022),生涯を通して自動車運転を実施する機会がない者が多いことが推察される.しかし,自動車運転状況や自動車運転免許の保有歴と認知機能との関連について,その詳細は明らかではない.
【目的】地域在住高齢女性の自動車運転状況や自動車運転免許の保有歴と認知機能との関連を調査することを目的とした.
【方法】地域コホート研究(垂水研究2018年または2019年)に参加した地域在住高齢女性641名のうち,要介護認定,認知症,うつ病,遂行機能検査で制限時間を超過した者,主要データに欠損のある者を除いた582名(平均年齢74.7±6.4歳)を横断的に分析した.認知機能は,National Center for Geriatrics and Gerontology functional assessment tool(NCGG-FAT)を用いて評価を行った.NCGG-FATにより自動車運転への関与が強調される3つの認知機能領域(注意機能,遂行機能,情報処理能力)(Egeto, et al. 2019)を評価し,各領域で下位20%の点数および達成時間を1つでも認めた者を認知機能低下と操作的に定義した.自動車運転状況は自動車の運転状況について回答を求め,運転継続群(自動車の免許を持っており,現在運転している),運転中止群(免許返納者,免許を持っているが未更新,免許を持っているが現在は運転をしていない),運転免許未保有群(自動車の免許をもっていない)の3群に分類した.統計解析は認知機能低下の有無を従属変数,自動車運転状況の3群を独立変数,年齢,服薬数(種類/日),教育歴,独居の有無,運動習慣の有無,抑うつ傾向を共変量としたロジスティック回帰分析を行った.本研究は当大学倫理委員会の承認(170351疫)を受け,対象者の同意を得て実施した.
【結果】認知機能低下を有する者の割合は30.9%であった.自動車運転状況の割合は運転継続群56.9%,運転中止群7.4%,運転免許未保有群35.7%であった.運転状況における認知機能低下を有する者の割合は運転継続群で15.7%,運転中止群で34.9%,運転免許未保有群で54.3%であり,運転免許未保有群で有意に高い割合であった(p<0.001).ロジスティック回帰分析の結果,運転継続群と比較し,運転免許未保有群と認知機能低下に有意な関連が認められた(オッズ比:2.72,95%信頼区間:1.67-4.44,p<0.001).しかし,運転継続群と比較した運転中止群と認知機能低下に有意な関連は認められなかった(オッズ比:0.82,95%信頼区間:0.34-1.98,p=0.665).
【考察】地域在住高齢女性において自動車運転免許を未保有であった者は,自動車運転を継続している者に比べ,認知機能低下を有する者の割合が高い可能性が示唆された.自動車運転を中止することによる認知機能の低下リスクが論じられるが(Shimada, et al. 2018),同等,もしくはそれ以上に自動車運転の経験を有さないことは認知機能の低下と関連するかもしれない.本研究の結果から,自動車運転状況,とりわけ自動車運転免許の保有歴を考慮し,認知機能の低下リスクが高い集団を同定することは,認知症を未然に防ぐ対策を講じる上で有益な知見となる可能性が示唆された.