第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域/援助機器

[ON-7] 一般演題:地域 7/援助機器 2

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-7-1] 地域在住高齢者の要介護認定に関連する基本チェックリストの領域と回答項目

古川 智巳1,2, 北澤 一樹1, 宮脇 利幸1, 岩谷 力1, 務台 均2 (1.長野保健医療大学保健科学部, 2.信州大学大学院 総合医理工学研究科)

【はじめに】地域在住高齢者の要介護発生を予測するツールとして基本チェックリスト(以下,KCL)が有効であるとする報告が散見される.それらの報告では運動機能の領域や回答項目に該当した場合,その後の要介護発生リスクが高くなることは共通しているが,その他の領域や回答項目については報告に一貫性がない.
今回,長野県飯山市の地域在住高齢者に対するKCL調査からその後3年間の要支援・要介護認定に関連する領域および回答項目について検討した.
【対象】2015年11月時点で飯山市在住の介護保険認定歴のない高齢者でKCL調査に参加し,項目に完全回答した3774名(女性1905名,男性1869名,平均年齢74.0歳,SD:7.1歳).
【方法】KCLは運動機能,栄養,口腔,閉じこもり,認知機能,うつの6領域25項目で構成される.項目は否定的な回答で該当ありと判断し,領域は各カットオフ値以上の項目該当で該当ありと判断し,介護予防事業の対象者となる.
観察期間を2015年11月から3年間,従属変数を要支援・介護認定の有無,独立変数を以下のモデル①,②としたCox比例ハザード分析を行った.モデル①は基本属性(年齢,性別,居住地区)と6領域の該当の有無とした.モデル②は基本属性と25項目の該当の有無とした.変数選択は基本属性を強制投入したのち,①6領域②25項目は変数減少法(尤度比)を用い,関連ある変数を抽出しハザード比(以下,HR)を求めた(投入0.05,除去0.1).死亡,転出は観察打ち切りとした.モデルの感度分析はハザード分析後の線形予測得点を求め,ROC曲線を描き,曲線下面積にて評価した.統計解析ソフトはIBM SPSS Statistics 27を用い,有意水準は0.05未満とした.本研究は当該施設の倫理審査委員会の承認を受けている.
【結果】3年間で新規に要支援・要介護を受けた者は328名(介護保険認定率6.1%)であった.
モデル①の6領域の該当の有無で関連が認められたのは,栄養HR2.11(95%信頼区間1.22-3.64),運動機能HR2.09(1.63-2.69),うつHR1.50(1.17-1.91),認知機能HR1.39(1.10-1.76),閉じこもりHR1.38(1.05-1.82)であった.曲線下面積は0.84であった.
モデル②の25項目の該当の有無で関連が認められたのは「No.6:階段を昇る」HR1.78(1.34-2.37),「No.5:相談にのる」HR1.45(1.10-1.92),「No.1:バス外出する」HR1.41(1.03-1.93),「No.17:外出回数の減少がある」HR1.38(1.06-1.79),「No.7:椅子から立ち上がる」HR1.38(1.03-1.84),「No.18:物忘れを指摘される」HR1.32(1.02-1.72)であった.有意な関連ではないものの同じモデルのなかに「No.2:買い物をしている」,「No.13:体重減少がある」,「No.23:億劫に感じる」の項目が含まれていた.曲線下面積は0.87であった.
【考察】飯山市における3年間の要支援・要介護認定に関わる領域と回答項目の該当の有無について多変量解析を行った.運動機能,栄養,閉じこもり,認知機能,うつの5領域の関連が認められ,回答項目では,運動機能に属する2項目,閉じこもり1項目,認知機能1項目,IADL2項目の関連を認めた.その他にモデル②にはIADL,栄養,うつに関する回答項目が含まれ,これらを合わせるとモデル①の領域と一致するため,これらは領域における要介護発生の関連を高める下位項目であると考えた.
KCLではIADL領域の該当についてカットオフ値は設定されていないが要介護発生の関連の高い項目があった.そのため今回の抽出された回答項目の該当に注目して,介護予防事業対象者を選定し,予防事業の参加を呼びかけていく必要があると考える.特に作業療法においてIADL,認知機能,うつの領域は専門領域であるため介護予防事業に寄与していく必要があると考える.