第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域/援助機器

[ON-7] 一般演題:地域 7/援助機器 2

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-7-2] 地域在住高齢者におけるソーシャルネットワークの変化の予測要因

山 功恭1,2, 横山 和樹3, 宮嶋 涼4, 井平 光3, 池田 望3 (1.医療法人社団大蔵会 札幌佐藤病院作業療法科, 2.札幌医科大学大学院保健医療学研究科, 3.札幌医科大学保健医療学部作業療法学科・理学療法学科, 4.江別市立病院)

【はじめに】我が国では平均寿命の延伸や少子高齢社会の進行に伴い,社会貢献の担い手として高齢者の就労に関心が寄せられる.高齢者の就労は,社会における人と人との結びつきやソーシャルサポートを保つための手段であり,作業療法においても支援の対象となる場合が多い.しかし,COVID-19の流行により,以前に仕事に従事していた高齢者も活動が制限され,社会における人と人との結びつきが希薄になる場合がある.本研究では,社会との結びつきを友人や親戚,家族等の総数であるネットワークサイズや接触頻度から評価するソーシャルネットワーク尺度を地域在住高齢者に用いて,COVID-19流行以前就労していたことが,ソーシャルネットワークの変化を予測するかについて明らかにすることを目的とした.
【方法】2017年に札幌医科大学が実施する地域在住高齢者を対象としたコホート研究(WHITE-3)に参加した183名に対し,追跡調査として2021年3月に郵送でアンケート調査を実施した.2021年のアンケートの返送があった139名のうち,脳器質性障害や認知症の既往を持つ者,要介護認定を受けている者,データに欠損のある者を除外した.ソーシャルネットワークは,日本語版 Lubben Social Network Scale 短縮版(以下,LSNS-6)を用いた(栗本 他,2011).LSNS-6は,「家族」および「友人や近隣住民など」に関するネットワークを各3項目の計6項目,6件法で回答する自記式質問紙である.質問項目は,「少なくとも月に1回,会ったり話をしたりする家族や親戚(友人)は何人いますか?」「個人的なことでも話すことができるくらい気楽に感じられる家族や親戚(友人)は何人いますか」「助けを求めることができるくらい親しく感じられる家族や親戚(友人)は何人いますか?」である.2017年と比較して2021年でLSNS-6の得点が減少していた対象者を低下群,それ以外を維持・増加群とした.就労状況は2017年時点で家事労働を含めず現在,働いていると回答した者を就労あり,働いていないと回答した者を就労なしの2群とした.データ分析として,LSNS-6の変化量を従属変数,2017年時の就労の有無を独立変数とした多項ロジスティック回帰分析を性別ごとに実施した.調整変数は,年齢,教育歴,独居の有無,経済状況,および抑うつの有無とした.分析にはSPSS 29.0を使用し,有意水準は0.05とした.本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得た.
【結果】分析対象者は116名(平均年齢74.3±5.4歳,うち女性73名)であり,LSNS-6 家族の維持・増加群43名(58.9%),低下群30名(41.1%),LSNS-6 友人の維持・増加群35名(47.9%),低下群38名(52.1%)であった.調整変数を考慮した分析の結果,LSNS-6 家族については,4年前の就労状況との間に有意な関連はみられなかった.一方で,LSNS-6友人については,性別ごとに分析すると,男性では有意な関連は認められなかったが,女性ではLSNS-6 友人の維持・拡大群は縮小群と比較して,就労あり(OR: 0.34, 95%CI: 0.12-0.97)が有意に低かった.
【考察】就労していた女性は4年後のLSNS-6 友人のソーシャルネットワークの低下に関連していた.就労を通して友人とのソーシャルネットワークが醸成されており,4年間での加齢や同世代の死といったライフイベントの中で低下した可能性が示唆された.高齢者の就労が促進される中,女性の就労役割を維持させながら,ソーシャルネットワークを維持または新たにつなげられる予防的な介入が重要である.一方,就労をしていた対象者の就労の形態がCOVID-19前後で変化したことも予測される.今後は就労の形態や種類を含めた詳細な要因の検討が求められる.