第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

地域/援助機器

[ON-7] 一般演題:地域 7/援助機器 2

2023年11月11日(土) 13:40 〜 14:40 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-7-3] 作業参加は14年後の入院や要介護認定のリスクを抑制するか?

小林 昭博1, 前場 洋佑2, 今井 忠則2 (1.群馬医療福祉大学リハビリテーション学部, 2.北里大学医療衛生学部)

【背景・目的】
 作業療法では作業参加(意味のある作業への従事)が健康やwell-beingに大きく影響を与え,健康の決定要因(重要な説明要因)であることを基本的仮説としている.その中でも作業参加と健康の関連を示してゆくことは重要であり,その方法の1つとして人間集団における健康状態とそれに関する要因の分布を明らかにする疫学調査は重要である.疫学は最終的には疾病の予防や寿命の延長,QOLの向上を目標としている.その目標を妨げる要因となる入院や要介護状態を予防する必要がある.今回,著者らは地域在住高齢者を対象とした長期追跡調査の第4次調査(初回2007年)を実施した.本研究の目的は当初1年間の作業参加の状況が14年後の入院や要介護認定を受けるリスクを抑制できるかどうかを明らかにすることである.
【方法】
 茨城県在住の地域在住高齢者を対象とし,調査を実施した.研究デザインはコホート研究(縦断研究)とし,作業参加の測定には自記式作業遂行指標(Self-completed Occupational Performance Index;以下,SOPI)を用いた.初回調査から1年後までのSOPI合計点の変化量から,作業参加良好群(維持・改善群:0点以上)と作業参加不良群(悪化群:−1点以下)の2群に分けた.入院と要介護度認定は14年後の調査における過去1年間の入院の有無,要介護度認定の有無で回答したものを使用した.データは初回調査(2007年時点),1年後(2008年時点),14年後(2021年時点)の3時点の調査データを用いた.2021年の郵送調査(有効回収率73.3%)において調査票に回答し,かつ2007年,2008年の調査と結合可能であった対象者から死亡等による家族回答(25名)及びSOPI変化量の欠損者(9名)を除いた356名(平均年齢77.1±4.6歳)を分析対象とした.良好群は240名(女性197名,74.6%),不良群は116名(女性96名,82.8%)であった.分析は不良群に対する良好群のリスク比を検討した.本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施された(No.2019-029).倫理規定に基づき,個人情報の保護や研究同意の手続きを行なった.
【結果】
 ①入院の有無(過去1年間):全体:54/346名(15.6%),良好群:30/233名(12.9%),不良群:24/113名(21.2%),相対リスク(リスク比):0.6084,95%C I(0.372–0.987),p=0.044.
 ②要介護認定の有無:全体:18/356名(5.06%),良好群:7/240名(2.92%),不良群:11/116名(9.48%),相対リスク(リスク比):0.3075,95%C I(0.122–0.773),p=0.008.
【考察・結論】
 地域在住高齢者において作業参加が当初1年間で維持・改善した人(良好群)は悪化した人(不良群)と比べて14年後の入院(過去1年間)するリスクが0.61倍低い(不良群は良好群に比べて1.64倍高い)ことが明らかになった.また,同様に維持・改善した人(良好群)は悪化した人(不良群)と比べて14年後の要介護認定を受けるリスクが0.31倍低い(不良群は良好群に比べて3.25倍高い)ことが明らかになった.つまり,作業参加の状況が14年後の入院や要介護認定を受けるリスクを抑制できることが示唆された.今後,これらに着目をした予防的な作業療法が重要になると考えられる.〈謝辞:本研究はJSPS科研費JP18K10704の助成を受けたものです〉