第57回日本作業療法学会

Presentation information

一般演題

地域/援助機器

[ON-7] 一般演題:地域 7/援助機器 2

Sat. Nov 11, 2023 1:40 PM - 2:40 PM 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-7-4] 作業ストーリーテリングを活用した計画実行型・認知症予防介入“カラー・ナラティブ”の効果

高島 理沙1, 澤村 大輔1, 吉田 祐子2, 坂上 真理3 (1.北海道大学大学院保健科学研究院リハビリテーション科学分野, 2.札幌保健医療大学保健医療学部看護学科, 3.札幌医科大学保健医療学部作業療法学科)

【序論】作業ストーリーテリング/メイキングは,クライエントの物語を引き出し,人生の再構築を支援するアプローチである(Ruth Zemke et al., 1996).筆者らはこのアプローチを応用し,高齢者の認知症予防を志向した“カラー・ナラティブ”プログラムを開発した.このプログラムは,介入中に行う作業を参加者自らが計画・実行するよう支援する特徴ももつ.パイロットスタディ(Risa Takashima et al., 2020)では,地域在住高齢者の全般的な認知機能と健康関連QOLでの有意な改善が示されたが,単群による前後比較での効果検証に留まっていた.
【目的】従来型介護予防プログラムと比較し,“カラー・ナラティブ”が地域在住高齢者の認知機能や生活機能,Well-beingに及ぼす効果を,介入の直後と6カ月後に検証することとした.
【方法】ランダム化比較試験を実施した.北海道A市の5つの高齢者サロンが協力した.介入群(カラー・ナラティブ):1)色カードを用いた集団での作業ストーリーテリングを通し,個人の価値ある日々の作業を目標に設定(約90分).2)各自が日々の中で価値のある作業を実行(約3か月).3)集団でふり返り(約90分).対照群(従来型介護予防プログラム):健康講話とゲームを集団で実施(約90分×2回).介入前(T1),介入直後(T2),介入の約6カ月後 (T3)の3時点で,基本属性,認知機能,生活機能,Well-beingのデータを収集.認知機能:Mini mental state examination (MMSE),Spans,記号探し,Wisconsin Card Sorting Test.生活機能:Frenchay Activities Index.Well-being:Life Engagement Test (LET;人生の目的の感覚),Meaning in Life Questionnaire-Short Form,MOS 12-Item Short-Form Health Survey (SF-12).統計解析は,介入前の群間差でχ2検定,t検定,Mann-WhitneyのU検定を実施.認知機能,生活機能,Well-beingで反復測定2元配置分散分析(時間×群)を実施し,多重比較補正にはBonferroni法を用いた.有意水準は5%未満とした.対象者には研究内容と倫理的配慮を説明し同意を得た.本研究は筆頭著者の所属機関倫理審査委員会の承認を得た(承認番号20-72-1).JSPS科研費19K1986209の助成を受けた.
【結果】57名が参加し,介入群5名,対照群6名が脱落した.最終的に46名(介入群23名,対照群23名,平均76.6 ± 6.2歳)が介入とT1~T3の3時点の評価を完了した.分散分析の結果,MMSE(F(1.76, 73.89) = 4.531,p = 0.017, η2 = 0.097)とLET(F(1.56, 65.58) = 8.743,p = 0.000, η2 = 0.172)で有意な交互作用を認めた.事後検定の結果, MMSEスコアは,対照群においてT2からT3で有意に低下した(p = 0.01).LTEスコアは,介入群においてT1からT3で有意に上昇した(p = 0.03).さらにT3において,MMSEスコア(t(42) = 2.68, p = 0.01, Cohen’s d = 0.80)とLTEスコア(t(42) = 2.58, p = 0.01, Cohen’s d = 0.78)は,対照群よりも介入群で有意に高かった.
【考察】本プログラムは従来型プログラムと比較し,地域在住高齢者の人生の目的の感覚を有意に高め,認知機能の低下を予防したことが示された.人生の目的評価点が高い人は,認知症発症リスクが低くより良好な認知機能を示す(Boyle, P. A. et al., 2009, 2012).人生の目的の感覚の強さが,介入群の認知機能の低下を予防した可能性がある.加えて,介入6か月後において,介入群では対照群よりも良好な認知機能を保ち,より強い人生の目的の感覚を抱いていたことは注目に値する.介入効果が6カ月後まで及んだ機序については更なる研究が必要である.“カラー・ナラティブ”は,作業療法の強みを活かした高齢者主体の予防的実践を促進すると期待される.