[ON-8-1] 作業に焦点を当てた教育プログラムに参加した地域在住高齢者における作業の知識やスキルの活用プロセス探索
【はじめに】近年,作業の知識やスキルを入手し,理解,評価,活用する能力である作業リテラシーを高めることで,人々は適切な作業を選択し,自分らしく健康的に社会参加ができるようになると言われるようになった.作業リテラシー教育の方法論を確立するのは重要であるが,作業リテラシー教育に関する研究は未だ少なく,どのように作業の知識やスキルを入手すると,どのように活用するのかに関する知見は見当たらない.【目的】作業に焦点をあてた教育プログラム(以下,作業EP)に参加した,地域在住虚弱高齢者(2次介護予防対象者レベル)が,現在している又は過去にしていた作業に関して,作業EPで提供されたどの作業の知識やスキル練習をどのようなプロセスで自分の生活の中で活用していくかを探索することである.【方法】情報提供者は,作業EPに参加した68名の地域在住虚弱高齢者のうち,研究に同意を得られた男性6名,女性10名の計16名で,平均年齢76.5±4.5歳であった.本研究の作業EPは,主に作業継続や健康維持にかかわる作業の知識や体験を提供し,作業リテラシーが高まるよう,1回90分で10回のセッションで構成されていた.手段は,半構造化インタビューで,逐語録を作成し,情報提供者の活用が語られた作業毎に,継続比較法を用いて分析した.本研究は茨城県立医療大学倫理審査委員会にて承認されている(第529).【結果】情報提供者全員が,提供された作業の知識とスキル練習を,現在しているあるいは過去にしていた作業に活用しており,7つの活用プロセス,作業の代償,作業中の技能向上,作業の継続維持,作業間の調整,作業の再開,作業の知識共有,作業の見通しのいずれかを1つから5つ用いていたことが理解された.全ての活用プロセスにおいて<プログラム中に例示された作業名称と自己の作業名称の類似性>が起点となっており,帰結には,<作業との結びつき強化><維持の見通し><作業との結びつき弱化>があることが理解された.<作業との結びつき弱化>については否定的な帰結ではなく,自分にとって意味や得られる機能を吟味した結果,より意味が深く,得られる機能が多い優先順位の高い作業の継続するための建設的な結果であった.また,作業EPで作業の知識やスキルを入手した後の理解や評価の段階において,作業の意味や機能の認識,資源の有益さ,心身機能低下による作業継続の危機は,複数の活用プロセスに関わっていることが理解された.【考察】多様な(7つの)活用プロセスがあることは,作業リテラシーを高める支援をするのに作業療法士が様々なアプローチを行える可能性があることを示している.教育プログラムの成果は,その複雑さのためにブラックボックス化しやすいが,どこでプロセスが滞留しているかの推察が可能になり,介入・支援の際に応用できる可能性が考えられる.一方で,本研究の作業EPでは,終了後に継続して作業の知識やスキル活用への支援を行っていないが,情報提供者は自ら理解し,評価し,自らの生活の中での活用までに至っており,このことは地域在住虚弱高齢者の作業に関する潜在能力の高さを改めて認識すると同時に,作業EPを通した作業リテラシー教育の重要性を示していると考える【まとめ】作業EPにより高まった作業リテラシーは,高齢者自身の現在している作業の継続可能性を高め,過去にしていた作業の再開を促進するのに活用され,地域在住虚弱高齢者の地域生活を支えることに役立つことが示唆される.