第57回日本作業療法学会

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[ON-8] 一般演題:地域 8

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-8-2] 異世代ホームシェアは高齢者世代と若者世代それぞれに何をもたらすのか

川崎 一平1,2, 原田 瞬1, 永井 邦明1, 森本 誠司1, 佐川 佳南枝1 (1.京都橘大学健康科学部作業療法学科, 2.静岡大学創造科学技術大学院情報科学専攻)

はじめに:
近年,新しい地域共生の一つの形として「異世代ホームシェア」が注目を集めており,欧米を中心に多くの国で実施されている.これは,地域に暮らす高齢者世帯が自宅の空き部屋を若者に間貸しして,世代が異なる他者が共同生活を行う中で双方が様々な便益を得ることができる仕組みである.日本でも新しい施策の一つとして各地で取り組まれており,特に京都は官民が連携して異世代ホームシェアを推進する「京都ソリデール」事業を実施している先進的な都市である.本研究の目的は,「京都ソリデール」事業を調査対象に,日本における異世代ホームシェアが高齢者と若者に与える影響を明らかにすることである.本研究は,筆者が所属する機関の研究倫理委員会から承認を受けて実施しており(承認番号20-12),また,日本学術振興会(JSPS)科研費20K13786の助成を受けたものである.発表内容に関する企業等とのCOIはない.
方法:
研究対象者は,京都府が実施する「京都ソリデール」事業で参加している高齢者13名と若者8名の計21名である.研究対象者へは1時間程度の半構造化インタビューをそれぞれ実施し,異世代ホームシェアをはじめた動機や,共同生活で良かったこと・悪かったこと,自分自身の気持ちや生活の変化などの質問を行い,後に分析用の逐語録を作成した.得られたデータの分析には,異世代ホームシェアが少なくとも高齢者または若者どちらか一方の世代に何かしらの影響を与えていると判断される記述に関してBerelsonの内容分析の手法を用い,最終的なカテゴリー化を行った.
結果:
収集したインタビューから,異世代ホームシェアがそれぞれの世代に与える影響に関連する記録単位を抽出した結果,294の記録単位が抽出された.抽出された記録単位は内容分析の方法に従って分類され,異世代ホームシェアが高齢者に与える影響として,【活動・交流の機会が生まれる:32.1%】,【心理的な安定を得られる:20.1%】,【生活のサポートが得られる:14.5%】,【若者の成長に寄与する機会を得る:14.5%】,【新しい学びの機会が得られる:5.7%】,【心配事が発生する:5.7%】,【メリハリのある生活を遅れる:4.4%】,【金銭的な利益が得られる:3.1%】の8つのカテゴリーが抽出され,若者に与える影響として【新しい学びの機会が得られる:40.7%】,【活動・交流の機会が生まれる:17.8%】,【心理的な安定を得られる:15.6%】,【快適な生活環境を得られる:14.8%】,【気遣いが必要となる:5.9%】,【低廉な家賃で住むことができる:5.2%】の6つのカテゴリーが抽出された.
結論:
本研究では,異世代ホームシェアがそれぞれの世代に与える影響として,高齢者においては他者交流や社会参加が促進され,社会的孤立を解消または和らげること,さらに若者の成長に寄与するという役割意識を持つこと等が明らかになった.若者においては,異世代ホームシェアが就学の幅を拡げ,老年期のライフイベントや老いに対する理解が深まること,高齢者からの学びが自己の成長に繋がっていることが明らかになった.新規的な取り組みである異世代ホームシェアは,新しい共生の形としてマルチに社会課題の解決策として機能する可能性があり,日本独自の文化や価値観に沿った仕組みづくりが必要である.