第57回日本作業療法学会

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[ON-8] 一般演題:地域 8

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-8-3] 山口県防府市の短期集中予防型通所サービスの成果

原 直利1,2, 三輪 徹郎2, 木原 涼子1, 村田 和弘1 (1.独立行政法人山口県立病院機構山口県立総合医療センターリハビリテーション科, 2.防府市役所健康福祉部高齢福祉課地域包括支援係)

【はじめに】山口県防府市では2019年に実施したモデル事業を経て,2021年1月より短期集中予防型通所サービス(以下,短期集中)を開始した.モデル事業では23名中18名が終了後にサービスを必要としない(以下,卒業)状態となり,その後の追跡調査でもほとんどの終了者がサービスを利用せずに生活している.今回,2021年1月から開始された短期集中の成果を報告する.
【防府市の短期集中の特徴】防府市の短期集中は1回あたり2時間,12回の通所と1~2回の訪問プログラムで構成されるリエイブルメントサービスである.その特徴は動機づけ面談を用いて通所中ではない6日と22時間で行ったことを振り返り,次回までにどう行動していくかを話し合う,利用者に「触れない」サービスである.また,終了時に繫ぐ資源として通いの場やサロンだけでなく,元の生活で行っていたことを重視する.
【調査の対象と期間】対象は2021年1月から2022年10月までに短期集中の利用を開始した295名の内,利用中止となった60名を除いた235名(男性90名,女性145名,平均年齢は81.8±7.0歳)とした.
【評価の内容と検証方法】評価は,握力(左右),CS-30,片脚立位(左右),TUG(通常,最大)の運動機能に加えて,老研式活動能力指標(以下,老研式),老年期うつ病評価尺度(以下,GDS),主観的健康観,EQ-5D-5L, Frenchay Activities Index (以下,FAI)を使用し,短期集中1回目と12回目で実施した.効果の検証はpaired-t testを使用した.また,卒業に至ったかということや短期集中後に繋がった資源について聞き取りをした.本報告におけるデータ使用に関して市と利用者の承諾を得ている.
【結果】235名の内,卒業に至った者は186名で卒業率は79.1%であった.福祉用具貸与のみの者が2名いたが,卒業に至った者に含めた.実施前後で有意な改善があった評価は片脚立位(右)(p<0.01),CS-30(p<0.01),TUG通常(p<0.01),TUG最大(p<0.01),老研式(p<0.01),GDS(p<0.01),EQ-5D-5L(p<0.01),FAI(p<0.01)であった.聞き取った資源の内容は通いの場やサロンのような「用意された資源」とIADLや趣味活動,家族や友人との交流などの「自分の資源」に分類できた.
【考察】今回の調査では,2019年のモデル事業同様に高い卒業率を示し,かつ多くの評価で利用前後の有意差が確認できた.厚生労働省による介護予防の理念には,「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれの要素にバランスよく働きかけることが重要であり,日常生活の活動を高め,家庭や社会への参加を促し,それによって一人一人の生きがいや自己実現のための取組を支援して,QOLの向上を目指すものとある.動機づけ面談による日々の振り返りや,卒業後に繋がる資源を「用意された資源」だけでなく,「自分の資源」にも注目し, 生きがいや自己実現のための取組を支援できたことが結果に繋がったと考える.また,リハビリテーション専門職,地域包括支援センターの担当者,生活支援コーディネーターなどの専門職だけでなく対象者本人もリエイブルメントチームの一員として役割を持つという「対象者のありたい姿」を中心とした理念に沿って支援を行えたことも重要だと考える.
【今後の展望】防府市の短期集中は利用中に対象者が行動変容を起こし, 生きがいや自己実現に取り組めるようになることを目指しているが,終了後にその状態を維持できることも重要である.今後は,短期集中終了後も対象者が身につけたセルフマネジメントを継続し,地域生活を行えているのか追跡調査を行っていきたいと考える.また,意欲を引き出す面談,気づきを促す面談,さらに対象者と環境を結び付けていくことは作業療法士の得意分野である.対象者や地域にとって必要な職種と言われるよう研鑽していきたい.