第57回日本作業療法学会

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[ON-8] 一般演題:地域 8

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-8-4] 我が国の作業療法士にとっての移民・難民の不可視性

河野 眞1, 山口 佳小里2, 石本 馨3 (1.国際医療福祉大学小田原保健医療学部, 2.国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部, 3.一般社団法人Bridges in Public Health)

【序論】近年,特定技能による職業移民やウクライナ難民など我が国の外国人受入れに関する報道を聞く機会が増えた.実際,現在の在留外国人は296万人を超えており(法務省,2022年),総人口の約2.4%に相当する規模である.翻って,我が国の作業療法分野における移民・難民をテーマとした研究を見ると,作業療法キーワード集に「移民」「難民」などの関連用語が未搭載の状況であり,2022年のOT学会でも「移民」「難民」の用語検索でヒットする演題は2件のみであった.一方,同年開催のWFOT学会では口述演題の約1.7%(15件)が移民・難民・強制移住といった用語を題名に含んでいた(筆者調べ).今後の在留外国人の拡大が予測される中,作業療法分野における移民・難民研究の世界的状況を知ることは,我が国の作業療法士による移民・難民支援のあるべき方向性の検討に資すると考えられる.
【目的】移民・難民をテーマとする作業療法分野の研究論文について,我が国と海外の状況を整理・比較し,その違いを明らかにする.
【方法】文献抽出にあたっては2018年~2022年の5年間に発表された原著論文を対象とし,検索エンジンにはPubmed及び医中誌を使用した.検索式は,Pubmedで((immigrant) OR (refugee)) AND (occupational therapy)を,医中誌で((移民) or (難民)) and (作業療法),及び(外国人)and(作業療法)を用いた(2023年2月3日抽出).整理・分析手続きとして,研究テーマに非該当の文献を除外したのち,研究者所属国,研究対象者出身国・移住国,研究方法,研究規模,研究テーマなどの一覧表を作成し単純集計を行った.一覧表は筆頭著者が初案を作成したのち,共著者2名を含む3名で妥当性を検討した.
【結果】採用文献は計71件であった.うち,Pubmed64件の研究者所属国は15か国に渡ったが,日本の研究者の文献は0件であったため,これらを海外文献とした.医中誌7件はすべて日本の研究者の文献であり,これらを日本文献とした.研究対象者の特徴として,海外文献で研究者所属国への移住者が大半を占めた(54件)のに対し,日本文献では他国から他国への難民が過半数(4件)であった.研究方法では,海外文献で大規模公開データによる調査4件,メタアナリシス・システマティックレビュー・スコーピングレビュー5件,RCTを含む介入研究8件など多彩であるのに対し,日本文献は全件が質的研究であった.また,n>1000の大規模研究が海外文献には複数存在するのに対し,日本文献には皆無であった.研究テーマでは,海外文献は移民・難民全般に関わるものが最多(21件)であったが,日本文献では障害のある移民・難民に関するもの(5件)が大半を占めた.
【考察】我が国の作業療法分野における移民・難民研究は,全例が小規模な質的研究であることから,仮説生成以前の萌芽的段階といえる.今後は海外と同様,体系立った大規模な調査研究を経てエビデンスレベルの高い介入研究が求められる.他国から自国への移住者を対象とする研究の少なさも我が国の特徴であるが,移民・難民を厳しく制限する従来の政府方針のため,我が国の作業療法士にとって在留外国人が不可視となっている可能性がある.また,海外では「移民・難民」という社会的要因自体が健康や生活に与える影響を検討する研究が多いのに対し,我が国では障害のある移民・難民をテーマとするものがほとんどである.そこには「健康の社会的決定要因」に関する認識の違いが示唆される.