第57回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-8] 一般演題:地域 8

2023年11月12日(日) 08:30 〜 09:30 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-8-5] 通所Cと訪問Cを併用した事で,一人で買い物に行く事が出来た一例

井浦 優太朗 (リハガーデンてくてく)

【初めに】厚生労働省は2025年を目途に,高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援を目的に地域包括ケアシステムの構築を推進している.本報告では,第一号通所事業サービス C(以下,通所 C)と短期訪問型サービスC(以下,訪問 C)において,地域包括支援センターの保健師と作業療法士(以下,OT)が連携し,3ヶ月間生活に関する相談及び助言,日常生活上必要な機能練習を行った結果,身体機能面や意欲の向上,行動変容に繋がった一例を報告する.
【事例紹介】70代後半,要支援2,男性(以下,Aさん).妻と息子夫婦と同居している.X年Y月散歩途中に転倒し体動困難でA 病院へ入院,リハビリテーション目的で同月B病院へ転院,X年Y+1ヶ月に退院となった.退院後も多発性関節炎や下肢筋力低下による転倒リスクが認められた.Ⅹ年Y+2ヶ月,主治医より勧められ,通所Cを利用開始となる.日常生活動作は自立しているが,日中は横になって過ごす事が多く,趣味や友人・地域との交流は消極的であった.玄関や浴室で転倒の不安がある為,卒業前に訪問Cにて住環境の調整を行う事とした.また,本報告に際し,書面にて同意を得た.
【作業療法評価】通所Ⅽでは,30秒立ち上がりテスト(以下,CS-30),Timed Up & Go Test(以下,TUG), 開眼片脚立位を毎月評価した.初回評価では,CS-30: 9回,TUG: 12.12秒,開眼片脚立位: 左右1秒未満と測定不能だった.興味関心チェックシートでは,「料理を作る」「買い物」「散歩」を「してみたい」と回答した.
【介入の基本方針】初回評価の結果では転倒リスク,活動量低下が認められた.聞き取りや興味関心チェックシートの結果から 3ヶ月後の卒業目標を「1km先のスーパーまで買い物に行き,好きな物を買う事ができる」とした.活動量向上や転倒リスク軽減,卒業後の運動継続を目指した自主練習としてスクワット等を指導し,練習結果はカレンダーに記入する事で視覚化した.訪問Cでは保健師と連携し,健康状況の把握や自宅内の転倒頻度の高い箇所を確認や福祉用具を検討した.
【介入経過】中間評価では,CS-30: 10 回,TUG: 11.78秒, 開眼片脚立位: 右足5.61秒,左足4.61秒であった.測定結果は向上したが,玄関で靴に躓き転倒があった.自主練習は週3 回程行える様になり,実施日はカレンダーに丸を付ける様になった.また「孫の自転車があるので,それに乗ってスーパーに買い物に行きたい.」と自発的な発言があり合意目標が変化し,通所時に10分間のエアロバイクを取り入れた.訪問Cでは,玄関,トイレ,浴室の手すりの設置位置の検討,1㎞先のスーパーへ買い物を想定した自転車操作や自宅周囲の坂道など環境面の確認した.
【結果】最終評価では,CS-30: 11回,TUG: 9.97秒, 開眼片脚立位: 右足4.82秒,左足5.61秒であった.また「ベッドから立ち上がる事が楽になった.」と発言があった.福祉用具業者と相談した結果,玄関,トイレに置き型手すりをレンタルし,浴室には住宅改修にて縦手すりを設置した.また,自転車に乗り近所のスーパーまで転倒せず買い物に行けた事で目標達成した.卒業後は地域の体操クラブへ移行が検討された.
【考察】日中寝て過ごす事の多かったAさんであったが,通所・訪問Cの取り組みや自主練習の継続により身体機能や活動量が向上した.心身の変化から自信が付いた事で目標が明確化し,行動変容に繋がったと考えた.目標をクライエントと共有しながら通所,訪問を組み合わせて介入する事で,短期間でも生活場面に密接した効果的な支援を行う事ができた.OTが地域医療福祉の架け橋となる事で,対象者が住み慣れた地域で暮らし続けることに繋がると考えた.