第57回日本作業療法学会

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一般演題

地域

[ON-9] 一般演題:地域 9

Sun. Nov 12, 2023 9:40 AM - 10:40 AM 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-9-2] 認知症当事者の利用を想定した公共図書館の物理的環境改善に関する研究

永井 邦明, 川崎 一平, 原田 瞬, 菅沼 一平, 小川 敬之 (京都橘大学健康科学部作業療法学科)

【序論】
公共図書館は,認知症当事者も他の人々と同じように自然な形で地域に溶け込むことができる貴重な場になると考えられている(永井邦明ら「認知症から考える多世代交流と地域共生のための公共図書館とは?」,2019).しかし,認知症当事者が公共図書館を利用し易くするための取り組みは乏しく,当事者の利用を妨げている物理的環境についても明らかにされていない.本研究では,認知症当事者が公共図書館を快適に利用できるようにすることを目的として,当事者の利用を想定した物理的環境の好事例,問題点,改善点を調査した.本研究は,研究協力者と施設責任者に口頭および書面で同意を得,筆者が所属する機関の研究倫理委員会から承認を受けて実施している.また,日本学術振興会(JSPS)科研費21K01961の助成を受けたものである.発表内容に関連する企業等とのCOIはない.
【方法】
本研究の協力者は,認知症当事者3名,当事者の家族4名,専門職等の支援者9名の計16名であった.協力者は,公共図書館Aの物理的環境を認知症当事者の利用し易さという観点から評価した.評価には,キャプション評価法が用いられた.キャプション評価法は,1990年代に建築学の分野で開発された環境づくりのための評価手法である(日本建築学会「より良い環境創造のための環境心理調査手法入門」,2000).研究協力者は,公共図書館Aの館内を見て回り,認知症当事者の利用を想定した場合に「良い」,「悪い」,「何か気になる」と感じた箇所を写真撮影した.そして,その理由やより良くするための改善策などを記載する専用のカード(キャプションカード)に記入を行った.
【結果】
上述の手続きによって得られたキャプションカードは,107枚であった.そのうち,良いと示されたカードは25枚,悪いと示されたカードは45枚,何か気になると示されたカードは37枚であった.良いと示された評価の具体例としては,柱にトイレの場所が大きく表示されて分かりやすいこと,地域の歴史を示す写真パネルが多数あり回想できること,ノルディックウォーキング体験が可能な健康応援スペースがあり気分転換できることなどが挙げられた.また,悪いと示された例では,認知症当事者が実際に本の自動貸出機を扱った際,20秒程度操作されない場合に画面がリセットされる機能が働いたことが挙げられる.そして,画面が長い時間維持される必要性が指摘されていた.何か気になると示された評価には,「戻すところが分からない絵本は,このワゴンに乗せてください」と書かれたワゴンが,子どもだけでなく認知症当事者の支援にも汎用できるとするものがあった.
【考察】
本研究フィールドは近年建設された公共図書館であり,他館の参考になると考えられる良い事例が多くみられた.中でも,書籍に関する面以外で良いと評価された点が多く,本を見ること以外の多様な機能も重視されていることが明らかとなった.また,より良くするための改善点として挙げられた意見は,認知症当事者だけではなく,他の疾患を呈する者や子育て世代など多くの人の利便性向上に寄与する.これらの知見は,作業療法士が社会参加支援を行う際にも活用できると考える.