第57回日本作業療法学会

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一般演題

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[ON-9] 一般演題:地域 9

2023年11月12日(日) 09:40 〜 10:40 第4会場 (会議場B5-7)

[ON-9-4] 訪問作業療法にて脳出血の既往があり喉頭癌によって永久気孔を造設した方に対し浴槽浴に向けてCO-OPアプローチを導入した一事例

松澤 良平, 渡部 雪絵 (IMS(イムス)グループ イムス板橋リハビリテーション病院)

【はじめに】Cognitive Orientation to daily Occupational Performance(以下,CO-OP)は作業遂行の中でも主に運動技能の問題解決に向けて,対象者自身が戦略を立て,生活に般化することができる作業療法の介入方法である.今回,既往に脳出血がありほぼ自立して生活していたが,喉頭癌の手術後,運動技能が低下し浴槽浴ができなくなった事例を担当した.今後,訪問作業療法でCO-OPを導入する一助になると思われるため報告する.なお,発表することについて,本人に説明し同意を得ている.
【事例紹介】A氏,60歳代男性.約6年前に左脳出血で右片麻痺になり,日常生活はほぼ自立しており,自宅で生活していた.今回,喉頭癌の手術で永久気孔を造設し約1ヶ月の入院を経て自宅に退院し,家事全般と入浴で介助を受けて生活するようになった.入浴については,今回の退院後に家族の介助を受けて行ったが,浴槽から立ち上がることができず,水が永久気孔から気管に入るというトラブルから恐怖心を抱き,訪問介護を利用してシャワー浴のみになっていた.退院から8ヶ月後に水が永久気孔に入りにくくなるシャワーエイドを購入することをきっかけに,本人から浴槽浴の希望があり,訪問作業療法で取り組むことになった.身体機能については,Brunnstrom stageは上肢V,手指V,下肢IVで,認知機能の低下はなかった.リビングの床からの立ち上がりは左上肢で物に掴まることなく,一人で可能であった.つまり,充分な身体機能を有しているが浴槽では活かすことができず,すなわち運動技能が低下していると判断した.そこで,運動技能の問題を解決するCO-OPが有効であると思われた.本人にCO-OPの説明を行い,同意が得られたため導入することになった.
【介入】浴槽が空の状態で初期評価を行った.浴槽を跨ぐ際と浴槽に座る際は,手すりを支持し安定していた.しかし,浴槽から立ち上がる際に,左上肢で手すりを支持しても立ち上がることができなかった.そこで本人と相談し,作業遂行の問題を「浴槽から一人で立ち上がる」に絞った.カナダ作業遂行測定(以下,COPM)の遂行度は1,満足度は3であった.観察上の遂行の質を評定するPerformance Quality Rating Scale generic rating system(以下,PQRS-G)は1であった.本人と遂行を改善するための戦略である領域特異的ストラテジー(Domain Specific Strategy; 以下,DSS)について話し,戦略を身につけるための過程であるGlobal StrategyのGoal-Plan-Do-Checkを繰り返した.目標達成に向けた可能化の原理(Enabling Principles)として,浴槽が空の状態,浅く湯を入れた状態,深く湯を入れた状態と段階づけて行った.最終段階の際に,訪問介護事業所の担当者が見学し,訪問介護利用時に浴槽浴を実施することになった.
【結果】入浴についての練習は週1回60分,合計4回であった.最終的なDSSは「右膝を立てて右腕で抱える」「左手で左側の手すりの前端を掴む」であり,浴槽で一人で立ち上がれるようになった.COPMの遂行度は6,満足度は6で共に向上した.PQRS-Gは9に向上した.訪問介護利用時に浴槽浴が可能となり般化を認めた.
【考察】A氏は,永久気孔を造設し身体構造上の変化があり,浴槽で立ち上がることに影響を及ぼしていた.受傷前に行うことができ,受傷後に心身機能を有していたとしても,運動技能は低下することがあると言える.心身機能と作業遂行はそれほど強い相関がないと言われており,今回のように実際の環境で,CO-OPを導入して作業遂行に取り組むことは重要である.訪問作業療法で基本的なADLにCO-OPを用いた報告は少なく,今後事例を重ねることが望まれる.