[OP-1-2] 脳卒中片麻痺患者の手指開閉運動から筋緊張を予測するアプリケーション開発
【序論】我々は現在までに小型赤外線2眼カメラ (Leap Motion) を用いた3次元動作解析システム手指機能評価アプリケーション:Fahrenheit (特許 第6375328号) を開発した. Fahrenheitは60fpsの時間分解で手指の運動を0から1の相対値として定量化することにより, その変化を記録できる. このシステムは治療の効果判定や, 手指の機能回復予測がおこなえるツールとして, また遠隔医療を行う際の一助となる可能性がある. これまでの成果として, Fahrenheitで測定した手指開閉運動のデータを機械学習させたことにより, 運動麻痺の重症度を自動判別できる人工知能の機能を有した. 現在, 非接触で筋緊張を推定する機能を追加するための予備的研究をおこなっており, これまでにFahrenheit測定値の振幅や周波数, 発症からの日数を特徴量とし, 障害側や性別を要因とする計算式で, 運動開始前の筋硬度を予測できることを報告した. しかし測定した筋によって因子の寄与率にばらつきがあったため, 筋緊張を推定する機能の追加には, より有効な計算式が必要であった.
【目的】Fahrenheitの機能に筋緊張を予測する機能を追加するため, 手指開閉運動の前後の筋硬度値をFahrenheitの測定から算出した周波数で推定式を求め, 各筋の筋硬度を予測できるのかを検証する.
【方法】対象は当院脳卒中センターに入院した急性期脳卒中患者のうち, 研究への同意が得られた者とした. 被験者は39名 (女性9名, 男性30名, 年齢71歳) であった. 筋緊張は筋硬度によって評価し, 測定箇所を尺側手根屈筋, 母指球筋, 長橈側手根伸筋, 総指伸筋の前腕4か所とした. 測定は筋硬度計 (PEK-1) を用い, それぞれの筋腹に貼付したマーキングシールに対し5回計測し, 最大および最小の値を除いた3回の平均値を筋硬度値とした. 測定は20秒間の手指開閉運動の前後に施行した. 手指開閉運動は20秒間可能な限り素早く, 手指を大きく開くこと, 強く握ることの2動作を連続でおこなわせFahrenheitで測定した. 測定肢位は椅子座位または車いす座位とし, 上肢を下垂させ肘関節90°屈曲, 前腕回内位とした. Leap Motionは手掌面から20㎝下方に配置された. 解析は麻痺側, 非麻痺側ともFahrenheitの測定値から単振動の正弦波に近似させて, その周波数と位相を計算した (f (x) = α*sin (βx+ φ) ) . 算出された周波数と筋緊張を一般化線形モデルで推定した (筋硬度= (麻痺側周波数*β1) + (非麻痺側周波数*β2) +切片) . この回帰式の整合性を得るため, 算出された39名の筋硬度値をBootstrap methodで筋ごとに5000データにリサンプリングし, 自己相関を判別した. 本研究は2021年度文科省科学研究費助成金研究 (基盤C) の採択を受け (21K11220) , 当院倫理審査委員会と研究機関に倫理承認された (I21-29) .
【結果】各被験者の手指開閉運動の単振動を算出し, そこから得られた麻痺側および非麻痺側の周波数を指標にしたことで, 麻痺側の運動後の筋硬度を予測する回帰式が得られた. 麻痺側尺側手根屈筋の運動後の筋硬度を予測する推定式が最も適合した (筋硬度= (0.114*β1) + (0.178*β2) +49.253;Durbin-Watson=.927, P<.001) .
【考察】手指開閉運動の前後で測定した場合, 上肢の筋緊張の予測には尺側手根屈筋が最も適していることが示唆された. この結果は今まで触診する必要があった筋緊張の評価を非接触で推定することができ, 遠隔の医療やリハビリテーションにおいて将来的に有効な評価システムになりうる. 今回, 計算式を簡略化するため, 実測値から近似させた正弦波は単振動で解析しており, 寄与率が低値であった. 今後は機能区分による違いを検証していく必要がある.
【目的】Fahrenheitの機能に筋緊張を予測する機能を追加するため, 手指開閉運動の前後の筋硬度値をFahrenheitの測定から算出した周波数で推定式を求め, 各筋の筋硬度を予測できるのかを検証する.
【方法】対象は当院脳卒中センターに入院した急性期脳卒中患者のうち, 研究への同意が得られた者とした. 被験者は39名 (女性9名, 男性30名, 年齢71歳) であった. 筋緊張は筋硬度によって評価し, 測定箇所を尺側手根屈筋, 母指球筋, 長橈側手根伸筋, 総指伸筋の前腕4か所とした. 測定は筋硬度計 (PEK-1) を用い, それぞれの筋腹に貼付したマーキングシールに対し5回計測し, 最大および最小の値を除いた3回の平均値を筋硬度値とした. 測定は20秒間の手指開閉運動の前後に施行した. 手指開閉運動は20秒間可能な限り素早く, 手指を大きく開くこと, 強く握ることの2動作を連続でおこなわせFahrenheitで測定した. 測定肢位は椅子座位または車いす座位とし, 上肢を下垂させ肘関節90°屈曲, 前腕回内位とした. Leap Motionは手掌面から20㎝下方に配置された. 解析は麻痺側, 非麻痺側ともFahrenheitの測定値から単振動の正弦波に近似させて, その周波数と位相を計算した (f (x) = α*sin (βx+ φ) ) . 算出された周波数と筋緊張を一般化線形モデルで推定した (筋硬度= (麻痺側周波数*β1) + (非麻痺側周波数*β2) +切片) . この回帰式の整合性を得るため, 算出された39名の筋硬度値をBootstrap methodで筋ごとに5000データにリサンプリングし, 自己相関を判別した. 本研究は2021年度文科省科学研究費助成金研究 (基盤C) の採択を受け (21K11220) , 当院倫理審査委員会と研究機関に倫理承認された (I21-29) .
【結果】各被験者の手指開閉運動の単振動を算出し, そこから得られた麻痺側および非麻痺側の周波数を指標にしたことで, 麻痺側の運動後の筋硬度を予測する回帰式が得られた. 麻痺側尺側手根屈筋の運動後の筋硬度を予測する推定式が最も適合した (筋硬度= (0.114*β1) + (0.178*β2) +49.253;Durbin-Watson=.927, P<.001) .
【考察】手指開閉運動の前後で測定した場合, 上肢の筋緊張の予測には尺側手根屈筋が最も適していることが示唆された. この結果は今まで触診する必要があった筋緊張の評価を非接触で推定することができ, 遠隔の医療やリハビリテーションにおいて将来的に有効な評価システムになりうる. 今回, 計算式を簡略化するため, 実測値から近似させた正弦波は単振動で解析しており, 寄与率が低値であった. 今後は機能区分による違いを検証していく必要がある.