[OP-1-5] 意味を介在した手の3すくみの関係性の理解と実行に関わる神経基盤
【序論】
学術的には,じゃんけんはtransverse patterning problem (TP課題) 【AはBとペアになったときに勝ち(A+, B-),同様に (B+, C-), (C+, A-)】の類型として認識されてきた.TP課題に関する先行研究の多くは,記憶に関わる海馬の統合と関連づけられ,主に動物実験や健忘症の患者により調べられてきた.しかし,人間発達学の視点からみるとじゃんけんは単なるTP課題ではないことに気づく.つまり,自分の手である形を表現すること,また,グー(手の形の表現)を石等と見立てる,つまり意味付けすることがさらに必要となる.しかしながら,このような意味を介在した手の3すくみの関係性の理解と実行に関わる神経基盤は明らかにされていない.一方で,自閉症スペクトラム児(ASD)では,じゃんけんの獲得時期の遅れや,特徴的な現象を示すことが指摘されてきた.ASDでは手の形の動作表現ができても,言葉の遅れや想像力の限定のため,見立てる能力が困難となり,そのために3すくみの関係性の理解と実行が遅延している可能性があると考えた.
【目的】
上記の可能性を検証する前段階として,まず健常者において,手の3すくみの関係性の理解と実行において,意味を介在する場合としない場合の神経基盤の違いを明らかにすることを目的とした.本研究では,ASDが意味のある関係性の理解を促進しやすくなる療法の確立を大きな目標としている.
【方法】
健常若年者30名を被験者とした.刺激には18枚の手のシンボルを用い,半分の9枚にある名前をラベルリングして意味あり(MF),もう半分はラベリングせず意味なし(ML)とした(1枚の写真はMFにもMLにもなりうる).課題はブロックデザインにて,(勝ち条件6試行,あいこ条件6試行)×3,計9セッションとし,試行錯誤による3すくみの理解の学習が成立するようにした.被験者は,3TMRIの中で両課題について30分の休憩を挟めて実施した.画像セットと意味の順はカウンターバランスをとった.行動データは,正解率と反応時間についてANOVAを用いて調べた.脳画像解析では,脳機能画像解析ソフトSPM8 を用いて,事象関連デザインにおける標準的な 2 段階解析を行い,MFとMLの差分解析にて調べた.統計的な閾値に関しては,危険率(p 値)0.1 %で全脳のボクセル毎検定を行い,クラスターサイズ(左記ボクセル毎検定で,有意な活動を認めたボクセルの集まりの大きさ)について 危険率(p 値)5 %で多重比較補正を行った.
【結果】
頭部の動きが大きかった(≥ 3 mm),ルールを順守できなかった被験者を除く27名のデータを解析した.MF>MLでは左楔前部,左角回,左上前頭回,左中心前回,右縁上回,右中側頭回,右内側帯状回/傍帯状回であった. ML>MFでは両側下頭頂小葉,左中側頭回,右中心前回,左下側頭回,両側中前頭回,右上前頭回,右背側前頭前野,右島皮質であった.
【考察】
ML課題では模倣などに関わるミラーニューロンシステム,MF課題では抑制機能や言語機能,自他区別などに関わるメンタライジングネットワークが主に関わることが示唆された.本知見を,今後はASDの療育や学習の基礎の獲得に役立てていきたい.
【倫理的配慮】
事前に東北大学医学部・医学系研究科倫理委員会の承認を得た後,被験者全員に対して研究の目的,方法,危険性等を口頭・書面にて説明し,同意書を得た.
学術的には,じゃんけんはtransverse patterning problem (TP課題) 【AはBとペアになったときに勝ち(A+, B-),同様に (B+, C-), (C+, A-)】の類型として認識されてきた.TP課題に関する先行研究の多くは,記憶に関わる海馬の統合と関連づけられ,主に動物実験や健忘症の患者により調べられてきた.しかし,人間発達学の視点からみるとじゃんけんは単なるTP課題ではないことに気づく.つまり,自分の手である形を表現すること,また,グー(手の形の表現)を石等と見立てる,つまり意味付けすることがさらに必要となる.しかしながら,このような意味を介在した手の3すくみの関係性の理解と実行に関わる神経基盤は明らかにされていない.一方で,自閉症スペクトラム児(ASD)では,じゃんけんの獲得時期の遅れや,特徴的な現象を示すことが指摘されてきた.ASDでは手の形の動作表現ができても,言葉の遅れや想像力の限定のため,見立てる能力が困難となり,そのために3すくみの関係性の理解と実行が遅延している可能性があると考えた.
【目的】
上記の可能性を検証する前段階として,まず健常者において,手の3すくみの関係性の理解と実行において,意味を介在する場合としない場合の神経基盤の違いを明らかにすることを目的とした.本研究では,ASDが意味のある関係性の理解を促進しやすくなる療法の確立を大きな目標としている.
【方法】
健常若年者30名を被験者とした.刺激には18枚の手のシンボルを用い,半分の9枚にある名前をラベルリングして意味あり(MF),もう半分はラベリングせず意味なし(ML)とした(1枚の写真はMFにもMLにもなりうる).課題はブロックデザインにて,(勝ち条件6試行,あいこ条件6試行)×3,計9セッションとし,試行錯誤による3すくみの理解の学習が成立するようにした.被験者は,3TMRIの中で両課題について30分の休憩を挟めて実施した.画像セットと意味の順はカウンターバランスをとった.行動データは,正解率と反応時間についてANOVAを用いて調べた.脳画像解析では,脳機能画像解析ソフトSPM8 を用いて,事象関連デザインにおける標準的な 2 段階解析を行い,MFとMLの差分解析にて調べた.統計的な閾値に関しては,危険率(p 値)0.1 %で全脳のボクセル毎検定を行い,クラスターサイズ(左記ボクセル毎検定で,有意な活動を認めたボクセルの集まりの大きさ)について 危険率(p 値)5 %で多重比較補正を行った.
【結果】
頭部の動きが大きかった(≥ 3 mm),ルールを順守できなかった被験者を除く27名のデータを解析した.MF>MLでは左楔前部,左角回,左上前頭回,左中心前回,右縁上回,右中側頭回,右内側帯状回/傍帯状回であった. ML>MFでは両側下頭頂小葉,左中側頭回,右中心前回,左下側頭回,両側中前頭回,右上前頭回,右背側前頭前野,右島皮質であった.
【考察】
ML課題では模倣などに関わるミラーニューロンシステム,MF課題では抑制機能や言語機能,自他区別などに関わるメンタライジングネットワークが主に関わることが示唆された.本知見を,今後はASDの療育や学習の基礎の獲得に役立てていきたい.
【倫理的配慮】
事前に東北大学医学部・医学系研究科倫理委員会の承認を得た後,被験者全員に対して研究の目的,方法,危険性等を口頭・書面にて説明し,同意書を得た.