[OP-2-1] 注意の能動的制御における経頭蓋直流電気刺激および経頭蓋ランダムノイズ刺激の効果
【序論】近年,大脳皮質の興奮性を変化させるニューロモデュレーションがリハビリテーション分野において注目を集めている.脳卒中治療ガイドライン2021では,経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が,「日常生活動作障害」や「半側空間無視」において推奨度Bに位置付けられた.一方で,神経科学領域では,tDCSに比べて不快感が少なく,より大きな効果が期待されている経頭蓋ランダムノイズ電気刺激(tRNS)の有効性が証明されつつある.しかしながら,認知機能をターゲットとし,その効果を検証した報告は少なく,十分なエビデンスは確立されていない.
【目的】円滑な日常生活の遂行に必要不可欠とされる不要な情報の抑制(注意の能動的制御)におけるtDCSおよびtRNSの有効性を検証することである.本研究は,認知機能改善へのニューロモデュレーションの臨床応用可能性を見出し,更には注意の能動的制御の障害を有する脳損傷患者やADHD患者の治療に貢献する可能性がある.
【方法】本研究は二重盲検無作為化比較試験であり,事前にUMIN 臨床試験登録システムに登録され,CONSORT声明に基づいて報告されるものである.対象は右利きの健常成人13名(女性7名)とし,対象者は3日以上の間隔を空けてtDCS,tRNS,偽刺激(Sham)の全ての刺激を経験し,その際に注意の能動的制御に関する課題を実施した.刺激順序についてはカウンターバランスを取った.各刺激条件で,刺激前,刺激中,刺激後の3つの時点で課題が行われた.課題には聴覚性課題であるPASATを用い,参加者はスクリーンに提示される不要な視覚刺激を抑制し,PASATを遂行するよう要求された.視覚刺激には,意味的競合が生じない記号(弱刺激条件)と意味的競合が生じる数字(強刺激条件)を用いた.また,神経生理学的指標として脳波計による事象関連電位(ERP)を計測した.統計解析には,PASATの正答率およびERP(N200, P300)に対し,刺激群×時間×課題の3要因分散分析を実施した.有意水準は5%とした.本研究は所属の倫理審査委員会の承認を受けて実施したものであり,全ての対象より書面にて同意を得た.
【結果】1名が全刺激を受けることができずに除外された.解析の結果,PASATの正答率では,刺激×課題の有意な交互作用を認め(F(2,22)=2.693, p=0.043, η2p=0.197),事後検定の結果,弱刺激条件では刺激中,刺激後共にShamと比較してtDCSで有意なPASAT正答率の向上を認めた(刺激中: t(11)=2.295, p= 0.042, Cohen’s d=0.662; 刺激後: t(11)=2.730, p=0.020, Cohen’s d=0.788).強刺激条件では,Shamと比較してtRNSで有意なPASAT正答率の向上を認めた(tRNS: t(11)=2.694, p= 0.021, Cohen’s d=0.780).N200では刺激×課題の有意な交互作用を認めるも(F(2,22)=7.725, p=0.003, η2p=0.413),P300では認めなかった.事後検定の結果,弱刺激条件ではshamに対し,tDCSで有意な課題成績向上およびN200の振幅の減少を認めた(t(11)=-3.20, p=0.008, Cohen’s d=-0.42).P300では計画的比較にて,強刺激条件下で,shamと比較してtRNSで有意な課題成績向上およびP300の振幅の増加を認めた.
【考察】これらの結果は,注意の能動的制御におけるtDCSおよびtRNSの有効性を示すものであり,その効果が妨害刺激の性質により異なる可能性を示唆するものである.これらのことから,目的に応じた適切なニューロモデュレーションの選択が対象者のパフォーマンス発揮に重要であるとする新たな洞察を提供するものであるかもしれない.本研究は,作業療法におけるニューロモデュレーション導入への基礎的知見を提供するトランスレーショナルリサーチであり,臨床研究へ向けたエビデンスの構築に貢献する.
【目的】円滑な日常生活の遂行に必要不可欠とされる不要な情報の抑制(注意の能動的制御)におけるtDCSおよびtRNSの有効性を検証することである.本研究は,認知機能改善へのニューロモデュレーションの臨床応用可能性を見出し,更には注意の能動的制御の障害を有する脳損傷患者やADHD患者の治療に貢献する可能性がある.
【方法】本研究は二重盲検無作為化比較試験であり,事前にUMIN 臨床試験登録システムに登録され,CONSORT声明に基づいて報告されるものである.対象は右利きの健常成人13名(女性7名)とし,対象者は3日以上の間隔を空けてtDCS,tRNS,偽刺激(Sham)の全ての刺激を経験し,その際に注意の能動的制御に関する課題を実施した.刺激順序についてはカウンターバランスを取った.各刺激条件で,刺激前,刺激中,刺激後の3つの時点で課題が行われた.課題には聴覚性課題であるPASATを用い,参加者はスクリーンに提示される不要な視覚刺激を抑制し,PASATを遂行するよう要求された.視覚刺激には,意味的競合が生じない記号(弱刺激条件)と意味的競合が生じる数字(強刺激条件)を用いた.また,神経生理学的指標として脳波計による事象関連電位(ERP)を計測した.統計解析には,PASATの正答率およびERP(N200, P300)に対し,刺激群×時間×課題の3要因分散分析を実施した.有意水準は5%とした.本研究は所属の倫理審査委員会の承認を受けて実施したものであり,全ての対象より書面にて同意を得た.
【結果】1名が全刺激を受けることができずに除外された.解析の結果,PASATの正答率では,刺激×課題の有意な交互作用を認め(F(2,22)=2.693, p=0.043, η2p=0.197),事後検定の結果,弱刺激条件では刺激中,刺激後共にShamと比較してtDCSで有意なPASAT正答率の向上を認めた(刺激中: t(11)=2.295, p= 0.042, Cohen’s d=0.662; 刺激後: t(11)=2.730, p=0.020, Cohen’s d=0.788).強刺激条件では,Shamと比較してtRNSで有意なPASAT正答率の向上を認めた(tRNS: t(11)=2.694, p= 0.021, Cohen’s d=0.780).N200では刺激×課題の有意な交互作用を認めるも(F(2,22)=7.725, p=0.003, η2p=0.413),P300では認めなかった.事後検定の結果,弱刺激条件ではshamに対し,tDCSで有意な課題成績向上およびN200の振幅の減少を認めた(t(11)=-3.20, p=0.008, Cohen’s d=-0.42).P300では計画的比較にて,強刺激条件下で,shamと比較してtRNSで有意な課題成績向上およびP300の振幅の増加を認めた.
【考察】これらの結果は,注意の能動的制御におけるtDCSおよびtRNSの有効性を示すものであり,その効果が妨害刺激の性質により異なる可能性を示唆するものである.これらのことから,目的に応じた適切なニューロモデュレーションの選択が対象者のパフォーマンス発揮に重要であるとする新たな洞察を提供するものであるかもしれない.本研究は,作業療法におけるニューロモデュレーション導入への基礎的知見を提供するトランスレーショナルリサーチであり,臨床研究へ向けたエビデンスの構築に貢献する.