第57回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OP-2] 一般演題:基礎研究 2

Sat. Nov 11, 2023 12:30 PM - 1:30 PM 第4会場 (会議場B5-7)

[OP-2-3] バーチャルリアリティ(VR)を用いた森林環境の体験によるストレス緩和効果

熊谷 颯人, 中村 裕二, 中島 そのみ, 仙石 泰仁 (札幌医科大学大学院保健医療学研究科感覚統合障害分野)

【はじめに】
我が国は超高齢社会への突入に伴い,介護保険認定者数の急増が見込まれており「閉じこもり」に関する予防・支援が重要となる.閉じこもり傾向の高齢者はストレスが増強しやすく,抑うつ症状や閉じこもりに繋がりやすいため,主要因と併せた精神的ストレスに対するアプローチが必要である.このことに関し,時間や場所に制限されないバーチャルリアリティ(VR)を用いた森林環境の体験に注目が集まっているが,この分野の研究は初期段階であるため,体験方法や環境の内容など適切な条件設定を検討していく必要がある.
【目的】
本研究では,視界と移動という対話性の要素を含むVRストリートビューアプリを用いた森林環境の体験と移動が制限され視界のみを自由に動かせる体験の生理・心理的反応と比較し,対話性の差異がもたらすストレス緩和効果を明らかにすることを目的とした.
【方法】
対象は,HMD型VR機器の使用経験のない右利きの健常成人21名.VR機器の使用に支障をきたす整形外科的・眼科的・耳鼻科的・神経学的な問題を認めない者とした.方法は,本実験の1週間前に,実験前手続きとしてVR機器等の操作方法の確認を行った.本実験は5分間椅子座位安静,25分間ストレス負荷課題,10分間VRストリートビューアプリ体験(森林環境)の順で実施した.森林環境は熊本県・菊池渓谷を選定し,体験中は自然音のBGMをかけた.VR体験方法は対話性の要素である移動と視界の要素を含む介入条件と視界の要素だけを含む対照条件の2種類があり,実施順番はランダムに決定した.測定指標は,自律神経活動の反応を評価するため,心拍変動(HF,LF/HF)と皮膚電位水準(SPL)を実験開始時から終了時まで継続的に測定した.また気分状態を評価するため,POMS2を安静後,ストレス負荷後,VR体験後の計3回測定した.測定したデータの分析は,標準化した生理的指標のデータに対し,動作の切り替わりの影響を考慮して安静時の開始1分間を除いた4分間の平均値をベースラインとし,ストレス負荷時,VR体験時も同様に終了前4分間の平均値を代表値とした.POMS2は素得点をT得点に換算し使用した.データ解析では,各指標ごとに体験方法(2)と測定区間(3)の対応のある2要因の反復測定分散分析を行った.有意差が見られた場合は下位検定を実施した.倫理的配慮として,本研究は札幌医科大学倫理委員会の許可を得てから実施した.
【結果】
 両条件共にストレス負荷時からVR体験時にかけて,副交感神経活動指標のHFが有意に増加,交感神経活動指標のSPLはベースラインよりも有意に減少,ネガティブ情動指標のTMDもベースライン付近まで有意に減少した.体験方法の違いでは,どの指標においても有意な差は見られなかった.
【考察】
 両条件共にVR体験時に交感神経活動は抑制・副交感神経活動は亢進,ネガティブ情動は減少しており,ストレス緩和効果を検証している先行研究を支持する結果が得られた.一方で,移動を制限した対照条件でも介入条件と同様のストレス緩和効果が確認された.これには,両条件に共通した視覚以外の視野角といった没入感に関係する要素が影響していたと考えられた.
 これらの事より,対話性の差異に関わらず,VRストリートビューアプリで森林環境を体験することで両指標からストレス緩和効果が得ることができ,より多くの対象者が気軽で身近に利用できるストレス緩和方法となりうる可能性が示された.