第57回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OQ-1] 一般演題:管理運営 1

Sat. Nov 11, 2023 1:40 PM - 2:40 PM 第5会場 (会議場B2)

[OQ-1-3] 作業療法士の職業的アイデンティティの現状についての検討

小池 康弘1,2, 實金 栄3, 名越 恵美3 (1.川崎医療福祉大学作業療法学科, 2.岡山県立大学保健福祉学研究科, 3.岡山県立大学看護学科)

【序論】作業療法士は職業的アイデンティティの育ちにくい職業であるとされている.作業療法のパラダイムが変遷していく中で,たびたび職業的アイデンティティの危機に晒されてきたことや(Kielhofner et al,1977),作業療法が個別性や日常性を重視するため,固有の技術として認識しにくく,職業的アイデンティティが形成されにくい(藤井ら,2002)ことが指摘されている. しかしながら,これまでの研究の中で,作業療法士と他の職種の職業的アイデンティティを比較した研究は見当たらない.また,近年の作業科学の発展,作業療法理論の確立に伴い,作業療法士の職業的アイデンティティも形成されてきているのではないかという疑問も残る.職業的アイデンティティは職務満足感や離職,バーンアウトとも関連しており,作業療法士の職業的アイデンティティの現状および多職種との相違を検討することの意義は十分にあると考える.
【目的】本研究の目的は演者らの開発した「医療専門職の職業的アイデンティティ尺度」を用いて,作業療法士と他の医療専門職の職業的アイデンティティを比較し,協働する医療専門職の中での作業療法士の職業的アイデンティティの現状を明らかにすることである.
【方法】対象は多段抽出法を用いて全国よりランダム抽出した看護師321名,理学療法士205名,作業療法士137名,言語聴覚士49名の合計712名とした.質問紙は演者らの開発した「医療専門職の職業的アイデンティティ尺度」を使用した.本尺度は医療専門職の職業的アイデンティティを「職業への矜持」と「職業と自己の同一性」の2因子20項目4件法で測定する尺度で信頼性と妥当性および因子不変性が確認されている.分析ではまず本研究の対象者に適切に尺度が反応しているかを確認するために確認的因子分析を実施した.その後,各職種間の職業的アイデンティティ尺度合計点および各因子得点の比較にKruskal-Wallis検定を用い,多重比較法にはMann-WhitneyのU検定およびBonferroni法を用いた.本研究は岡山県立大学倫理審査委員会の承認(受付番号21-61)を受けた上で実施し,対象者には文書で研究趣旨を説明し,同意の意志を確認した上でアンケートの返送を依頼した.
【結果】対象者の平均年齢は40.0±9.8歳,平均経験年数は16.4±9.3年であった.確認的因子分析の結果,本研究の対象者に適切に尺度が反応していることが確認された.各職種間の職業的アイデンティティ尺度の合計点の比較では,作業療法士は看護師(p<0.01,r=0.187),理学療法士(p<0.05,r=0.202)に比して有意に得点が低かった.各因子得点については「職業への矜持」では作業療法士は理学療法士に比して有意に得点が低かった(p<0.05,r=0.184).また,「職業と自己の同一性」では作業療法士は看護師(p<0.01,r=0.197),理学療法士(p<0.05,r=0.182)に比して有意に得点が低かった.
【考察】本研究の結果より,作業療法士は看護師,理学療法士と比較して職業的アイデンティティが低いことが明らかとなった.作業療法は対象者個人に合わせて介入が異なり,他職種から必要とされる役割も異なる場合が多い.このような中では作業療法士に対する矜持が形成されにくく,専門性や独自性が見出されにくいと考えられる.そのため,今後は作業療法士の職業的アイデンティティを向上させるための方法論の検討や作業療法士の専門性,独自性を強く認識できるような試みが必要である.