第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OR-1] 一般演題:教育 1

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第7会場 (会議場B3-4)

[OR-1-3] 作業療法学生が臨床実習で経験するヒヤリ・ハットの調査研究

徳地 亮, 大岸 太一, 用稲 丈人, 黒住 千春, 妹尾 勝利 (川崎医療福祉大学作業療法学科)

序論:臨床実習は,作業療法学生(OT学生)が実習指導者の指導・監督のもと,業務環境で基本的な専門技能を経験する重要な機会である.しかしOT学生は,実践経験の不足や臨床実習への不安・ストレスから,ヒヤリ・ハット等の実習エラーを経験する可能性がある.実習エラーについては,OT学生の29.0~74.1%がヒヤリ・ハットを経験すること(髪元ら,2002;彌永ら,2002)や,ヒヤリ・ハット経験から心理変化が生じる(徳地ら,2022)ことが報告されているものの,OT学生を対象とした実習エラーに関する研究はわずかである.そのためOT学生が経験した実習エラーの分析は,作業療法安全教育の戦略を考える上で重要である.
目的:本学における臨床実習Ⅰ期からⅢ期でOT学生が経験した実習エラーを継時的に調査し,その実態を明らかにする.
方法:対象者は,本学の4年次生で2022年度臨床実習Ⅰ期からⅢ期を修了した58名であった.本学の2022年度臨床実習は,COVID-19拡大のため,Ⅰ期1週,Ⅱ期4週,Ⅲ期8週とした.各期終了後にGoogle Formsで作成した無記名アンケートを実施した.本研究ではヒヤリ・ハットを,クライエントへの影響に関わらず,OT学生が臨床実習中にヒヤリ,ハッとしたことと定義した.対象者には,研究目的や方法を説明し,同意を得た上で回答を依頼した.調査項目は,各期のヒヤリ・ハット経験の有無,経験有の場合はヒヤリ・ハットを経験した件数や時間,場所,内容,実習指導者への報告の有無,心理変化の有無とその内容とした.分析は,量的データを単純集計,質的データを質的データ分析した.本研究は,川崎医療福祉大学の倫理委員会の承認を得た(承認番号:21-107).
結果:結果はⅠ期,Ⅱ期,Ⅲ期の順に示す.回答数は,33名(56.9%),30名(51.7%),32名(55.2%)であった.このうちヒヤリ・ハット経験有の回答数とヒヤリ・ハット件数は,8名(24.2%)11件,11名(36.7%)18件,11名(34.4%)19件であった.時間はいずれも10時~12時が最多で,3名4件,10名14件,5名9件であった.場所の最多は,Ⅰ・Ⅲ期がリハビリテーション(作業療法)室で5名7件と6名8件,Ⅱ期が病棟の5名7件であった.実習指導者への報告有は,8名11件,8名9件,10名18件であった.内容は,当事者としての経験が7名10件,10名13件,8名13件で,技能(精神運動領域)に関するものが占め,各期の最多は移乗・移動3名4件,コミュニケーション3名5件,移乗・移動4名4件であった.心理変化有は,7名,7名,8名であり,経験によるポジティブな心理状態には,非当事者としての経験をすべて含んでいた.経験によるネガティブな心理状態は,すべて当事者としての経験であった.
考察:回答数と件数はⅡ期とⅢ期で大差なく,OT学生のヒヤリ・ハットは開始後4週で生じることを示唆している.これは,開始直後ほど実践経験の不足や臨床実習への不安・ストレスが影響しやすいことや,長期間の臨床実習で多くの技能を経験する機会があったことによるものと考える.心理変化について,非当事者としての経験はすべてポジティブな心理変化であり,同じ空間での経験が学びに繋がった可能性がある.一方,ネガティブな心理変化は,すべて当事者としての経験であり,起こるべきではない出来事の経験が心理変化をもたらしたと考える.今回の結果を作業療法安全教育の材料として教育方法や内容を再検討し,臨床実習をより安全に遂行できる学内・学外教育を展開したい.