第57回日本作業療法学会

講演情報

一般演題

基礎研究

[OR-1] 一般演題:教育 1

2023年11月10日(金) 15:40 〜 16:50 第7会場 (会議場B3-4)

[OR-1-6] 地域在住高齢者と作業療法学生の世代間交流に関する考察

井戸 佳子, 桑原 由喜, 山下 浩平 (長崎リハビリテーション学院)

【背景】少子・高齢社会では,家庭の場以外でも高齢者と多世代が共存・協力してコミュニティを形成することが課題といわれ,各地で取組がなされている.また,2019年の指定規則改正では,地域包括ケアシステムを理解し地域の関係機関と調整する能力や,高齢者の地域生活を支援するための課題解決能力を培うことなどが盛り込まれている.当学院では,地域課題に貢献できる作業療法士育成を目指し,2017年から大村市長寿介護課と連携し,世代間交流を目的とした介護予防教室(以下,講座)において,学生が企画したレクレーションを介して高齢者と交流する機会を設けている.世代間交流の先行研究は,高齢者と子どもの世代間交流に関する報告が最も多く,高齢者と若者の世代間交流は看護学生に関する報告が多い.
【目的】高齢者の若者との世代間交流の実態と高齢者が世代間交流をどのようにとらえているのかを明確にし,今後の講座と授業の課題を抽出する.
【方法】対象は,2022年に講座を申請した3団体の高齢者42名.学生とレクリエーションで交流した後,アンケート調査を実施した.調査内容は,基本属性(年代,性,家族構成),講座に関すること(4項目5件法),若者との世代間交流に関すること(3項目4件法,2項目自由回答)である.分析は,単純集計により全体像を把握し,さらに年代および家族構成の違いによる比較を行った.自由回答は類似したものをまとめた.本研究においては対象者が特定されないように個人情報を匿名化し,研究への使用については,事前に説明し承諾を得た.
【結果】対象の年齢は60歳未満3名,60歳代5名,70歳代27名,80歳代7名,性別は男性10名,女性32名であった.「講座の満足度」は,95%が満足・ほぼ満足と回答し,「今後も講座を希望するか」は,90%がぜひ希望する・希望すると回答し,講座を肯定的にとらえていた.「若者との交流の機会」は,61%がある・時々あると回答し,「最も多く交流する若者」は娘・息子(42%),孫(26%)の順に回答が多かった.「若者への関心」は92%がとてもある・まあまああると回答した.「若者との交流で期待すること」(自由回答)は回答なしを除き,一緒に楽しめるプログラム,元気や若さをもらう,互いの年代を知る(相互理解)に分類した.年代の違いによる比較では,「若者との交流の機会」は,70歳以上が70歳未満と比べて,あまりない・全くないと回答した割合が多かった.
【考察】世代間交流を目的とした講座が,満足度が高かったのは,若者への関心が高い対象者のニーズに沿ったものだったためと考えられる.年代が高くなるほど若者との交流の機会は少ない傾向にあるが,若者への関心は年代による差はみられないため,年代が高いほど講座の意義は大きいと考えられる.若者との交流で期待することは,一緒に楽しめるプログラム,元気や若さをもらう,互いの年代を知る(相互理解)であったことから,今後は講座の企画から学生と高齢者が協同して,内容の充実や相互理解を深める展開をしていきたい.亀井らは「世代間交流は高齢者の孤立を防ぎ,心の健康に良い効果をもたらす」と報告している.また,高齢社会白書によると,高齢者は若者との世代間交流を促進するための条件に「交流機会の設定」をあげていることから,講座は世代間交流を促進する機会のひとつになると考えられる.今後は,団体の特性を把握しそれに沿った講座の充実に向けて学生と共に取り組み,求められる作業療法士を養成していきたい.