第57回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OR-2] 一般演題:教育 2

Sat. Nov 11, 2023 11:20 AM - 12:20 PM 第5会場 (会議場B2)

[OR-2-3] クライエント中心の3Dプリンタ自助具に関する課題解決型授業の効果検証

木口 尚人1, 真田 育依1, 細田 彰一2, 渡邉 信也3 (1.茨城県立医療大学, 2.日本工業大学, 3.茨城県立医療大学付属病院)

【はじめに】
 作業を用いたクライエント中心である作業療法において,作業参加の支援のために自助具を用いる支援はコンピテンシーの1つとされている.自助具を介した作業療法を成功させるには,作業療法士はクライエント(CL)を中心に位置付け,作業遂行文脈を理解しCLと協業して自助具を提供,評価,調整することが重要とされる.CLの作業遂行文脈は多様であり個々のニーズに対応するために,形状やサイズ等を容易に調整できる3Dプリンタ自助具(3DA)を作業療法実践に導入する取り組みが世界的に注目されている.昨今,作業療法実践への3Dプリンタ技術の導入も進められるが,既存のデータをそのまま3Dプリンタで印刷する取り組みに限局していたり,物理的・技術的な問題も散在している.臨床への3DAの導入を促進するためには,CLのニーズや作業遂行文脈を理解し,実際に自助具の作成体験する教育の機会が重要とされるが,自助具に関する教育の場となる養成校教育でクライエント中心の3DAを扱った教育に関する報告は少なく,教授方法は確立されていない現状にある.
【目的】
 養成校学生へのクライエント中心の3DA作成に関する2日間の授業が,学生の3DAに対する認識に与える影響を検証する.
【方法】
 茨城県立医療大学作業療法学科3年生科目である「日常生活活動演習」を履修する学生(N=38)に対して,3DAを作成する1回180分の授業を2日間行った.授業の内容は,1日目で,①3Dプリンタの概要説明,②本学付属病院に入院するCLの作業遂行文脈の整理,③CLの作業遂行場面の観察評価と遂行上の問題点の抽出と改善策の検討,④無料CADソフト(Tinkercad)を使用して作業遂行を支援する3DA(リーチャーの先端パーツ)の作図,⑤3Dプリンタの印刷設定体験,1週間後の2日目の授業で,⑤木材や針金等既存の材料と3DAのパーツを掛け合わせたリーチャーの作成,⑥個々がデザインした3DAの印刷時間と材料費のフィードバックと担当教員の講評を行った.作図した各3DAの印刷は担当教員が行った.先行研究を参考にTechnology Acceptance Model(TAM)に基づいた3DAに対する認識と,学習意欲について問う自記式質問紙を用いて,授業の受講前後における履修学生の3DAに対する認識の変化を調査した.研究実施にあたり茨城県立医療大学研究倫理委員会の承認を得た.
【結果】
 授業の前後共に回答があったのは30名(回収率79%)であり,3Dプリンタを初めて使う者が80%を占めた.授業前後で,3DAの認識に関する全15項目(有用性,使い勝手,実践への導入の態度と意向,更なる学習意欲)で有意な向上を認めた.
【考察】
 2日間のクライエント中心の作業に焦点を当てた3DAに関する教授方法は,学生の3DAの理解を深め,更なる学習意欲を高めることがわかった.本授業で学生は単に便利な自助具を3Dプリンタで作るのではなく,実際のCLの作業遂行場面の観察とCLのニーズの整理を通してクライエント中心の3DA作成を体験した.こうした課題解決型の教授法により,調整が容易に可能な3DAが個別性の高い作業療法に対して有益であるという認識が深まった可能性が考えられる.昨近では,CLを中心とした自助具の作成や提供するプロセスにおいてCLが直接参加するCo-Designの概念の重要性が高まっており,今後の研究においては,授業の質的な効果や,養成卒業後の長期的な影響の調査に加え,作成した3DAに対するCLの認識にも言及する必要がある.