第57回日本作業療法学会

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一般演題

基礎研究

[OR-2] 一般演題:教育 2

Sat. Nov 11, 2023 11:20 AM - 12:20 PM 第5会場 (会議場B2)

[OR-2-5] 当事者参画医療社会モデルのシナリオ創出におけるピアサポートDX化教育

小林 幸治1, 葉山 靖明2, 細田 満和子3, 北原 秀治4, 永田 敬生5 (1.目白大学保健医療学部 作業療法学科, 2.デイサービスけやき通り, 3.星槎大学大学院教育学研究科, 4.東京女子医科大学先端生命医科学研究所 先端工学外科分野, 5.福岡医健・スポーツ専門学校作業療法科)

【背景】ピアサポートは当事者が自らの経験を生かし,専門職には担えない重要な役割を果たす対等な立場での支え合いとされる(横山ら2021).ピアサポート活動において,作業療法士(以下OT)は当事者が安心・安全に活動するための環境や相談体制づくり(駒井ら2005)を行う特徴がある.また,第1・2筆者は,2016年にNPO学びあいを設立し,リハ専門職養成教育において障がいの体験に基づいた教育が不足していると捉え,当事者が講師となり実際の障がい経験を伝える事で,当事者の社会貢献や自信に繋げる活動を行ってきた.この活動では人生に意味を与える,人に参加や従事の機会を与えるという作業の力(ボンジェ2020)を活用している.今回,「ピアサポートDX化による新しい当事者参画医療社会モデル構築に向けたシナリオ創出」(RISTEX採択研究)の一環として,医療者,研究者,当事者,学生,企業によるDX化させたピアサポート活動の中にOT教育を取り入れるプロジェクトを行った.
【目的】ピアサポートDX化を体験した学生,当事者,企業,教員,研究者の視点について明らかにし,実装のための土台作りとする.➀当事者がどのように受け止めたか,②学生はこれからのピアサポートの可能性をどう捉えたか,③企業はプロジェクトに参画する意義をどう捉えたか,④教員は本教育プロジェクトの意義をどう捉えたか,⑤研究者はピアサポートDX化の実装についてどんな印象を持ったか,を知る.
【方法】医療者,研究者,当事者で研究ミーティングの討議により,当事者間のピアサポートをXRCCや遠隔操作ロボットやARといったDX技術を用いて仮想空間や遠隔で行う活動にOT学生が参加する全6回の教育プログラムを作成した.学生は3年制OT養成学校在籍2年生14名(希望者),当事者はNPO学びあい会員(脳卒中片麻痺者5名,筋ジストロフィー四肢麻痺者1名と介護者,脊髄損傷者1名),DX企業3社,OT教員2名,研究者3名(医師・社会学者・OT)が参加した.各回実施後,学生や当事者に無記名のアンケート調査を行い,研究メンバーや企業とヒアリングを行った.研究代表者である第3筆者の所属する大学の研究倫理審査委員会の承認(R⁻2021⁻72)を得た.
【結果】学生は「非常に関心を持った」70%で,DX技術によって遠隔で当事者の世界が広がる事を評価しており,将来提案して活用でき,作業療法の幅が広がるため全国の学校で教えてほしいとした.当事者は「非常に良い」25~40%で,遠くの人に会えたり行けることに期待ができるとした一方で,きっかけにはなるがその後のリアルなサポートは必要であり,特に操作が簡単になってほしいという指摘が多かった.企業は,普段教育の場に加わる事が全くなく,技術が活用される可能性を知る機会となり,学生や当事者の意見は改善に非常に参考になるとした.OT教員は,参加型の授業であり,学生の発想力や意見からこのプロジェクトの意義を再認識したとあった.研究者は,ピアサポートとそれを取り巻く社会をDX化するコミュニティのデザインを検討する上で教育に着目したプロジェクトの実施から多くの示唆を得たとした.
【考察】今回,医療者・研究者・当事者による多彩な立場での教育現場を含めた研究を行い,プロジェクト実施には多くの方の協力を必要とした.そのため,すぐ他養成学校での実施は難しいかもしれないが,相互の視点を明らかにする事に寄与したと考える.特に,ピアサポートDX化について当事者の,教育内容として学生の評価が貴重であった.また,OT等が当事者団体のピアサポート環境や教育への参加をサポートできる可能性が明確になったと考える.