第57回日本作業療法学会

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一般演題

脳血管疾患等

[OR-3] 一般演題:教育 3

Sun. Nov 12, 2023 8:30 AM - 9:30 AM 第5会場 (会議場B2)

[OR-3-2] リハビリテーション専門学校に通う成績不良学生の職業的アイデンティティに着目をした研究

高木 雄作1,2, 楚 天舒2, 岸本 裕歩2,3 (1.医療福祉専門学校緑生館作業療法学科, 2.九州大学大学院人間環境学府, 3.九州大学基幹教育院)

<背景と目的>近年,我が国では少子化が進み,文部科学省1)は大学全入時代においては,多くの大学において,大学入試の選抜機能が低下し入試によって入学者の学力水準を担保することが困難な状態になりつつあると指摘している.筆頭演者が勤める,作業療法士(OT),理学療法士を養成する専門学校においても同様の状況があり,入学後の学力向上に苦慮をしている.小林2)は,OTの養成校では,職業適性に悩み,学業不振のために留年や退学する学生が増加傾向にあると述べ,また,中野ら3)は,養成校に入学する最近の学生は,職業同一性が未熟の中で学業に励む傾向が多いと言及しており,職業アイデンティティ(職業ID)形成における背景や学業への影響を研究する重要性を考える.本研究の目的は,リハビリテーション専門学校に通う成績不良学生の職業IDに着目をした行動プロセスを質的研究により明らかにすることにした.
<対象と方法>本研究は,医療福祉専門学校緑生館の研究倫理審査員会の承認を受け実施された(受理番号作-22001).対象は,2022年度に作業療法・理学療法学科に入学した1年生のうち,前期試験にて1科目以上が再試験となり,クラス平均点を下回る12名であった(作業療法学科7名,理学療法学科5名).対象者に本研究の主旨を口頭及び書面にて説明し,同意が得られたのは11名であった.研究デザインは,インタビューガイドを作成した半構造化面接であり,面接時間は1名あたり50分程度であった.データ分析には,シンボリック相互作用論を取り入れている修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いた.シンボリック相互作用論とは「自己や個人の内側に中心を置いて,社会状況における意味の創造を強調する」理論であり,本研究に適していると考え採用した.
<結果>インタビューにより,対象学生の行動プロセスから35の概念と5のカテゴリーが抽出された.すなわち,アイデンティティ,職業ID,やり抜く力,成績の結果,そして生活環境であった.定期試験の学習に取り組む学生の行動として,学生たちのアイデンティティは自尊感情が低い者が多く,職業IDは曖昧な傾向にあった.そのために,明確な目標を定めにくく,やり抜く力にネガティブな影響を与えていた.その結果,定期試験では成績不良となり,成績の結果から自尊感情を更に下げ,就学や就職への不安を増強させるという負の構造がみられた.また,生活環境は,食事や睡眠を基本としたが,朝の目覚めの悪さが傾向として認められた.
<考察>本研究により,成績不良学生の行動プロセスに,影響を与える構造が解明された.成績不良に関する先行研究として,吉澤ら(2008)は学校生活にうまく適応できていない状態が,北村ら(2020)は1年次の成績が,最終学年次の成績に影響すると報告している.本研究は1年前期の成績がどのようなプロセスで不良となっているのかを検討している.入学初期における,アイデンティティや職業IDの確立に向けた関わりの重要性が示され,能動的な自己や職業探索の機会を創出することが必要であると考えられた.今後,入学初期からの効果的な学生支援の在り方を構築していくことが課題である.
<引用文献>
1)文部科学省:本審議会答申「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について」
2)小林毅:作業療法士の養成に関して~日本作業療法士協会教育部の活動~.作業療法22:114-118,2003.
3)中野良哉,大倉三洋,酒井寿美,他:医療系専門学校の進学動機と職業的同一性―理学療法士,作業療法士養成課程の学生を対象に―.高知リハビリテーション学院紀要11:1-8,2010.