第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

Fri. Nov 10, 2023 11:00 AM - 12:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-1-12] 箸の使用獲得に向けた修正CI療法に自作したYouTube動画の利用を試みた事例

松枝 琢磨1, 岡野 昭夫2 (1.医療法人財団善常会 善常会リハビリテーション病院, 2.中部大学 生命健康科学部作業療法学科)

【はじめに】
 修正 CI療法(以下mCI療法)は自主練習の一部にロボット療法を併用し実施にかかる人的資源を効率化した報告もみられる.しかしmCI療法の提供は多くの練習課題を必要とし課題作成の準備に時間を要す点が問題となる.当院ではYouTube動画を用いてmCI療法の課題作成を進めることでこの問題に対応している.過去の報告ではこの問題に動画を用いて対応した報告は少ない.本報告はYouTube動画を用いた介入が課題作成の準備負担を軽減し,脳卒中の上肢機能改善の一助になるかを一事例の経過を通して報告する.
【事例紹介】
 事例は左被殻出血を呈した50歳代後半の右利きの男性で22病日に当院回復期病棟に入院した.職業は鉄工所を自営し復職の希望があった.入院時は右BRS上肢IV・手指VI・下肢V,右手の浮腫・触覚軽度鈍麻を認めたが機能改善により52病日に独歩での移動が,67病日に入浴が自立となった.上肢機能の入院時・1か月後の値は,FMAは56・61点,MAL-AOUは2.0・4.16,MAL-QOMは1.5・3.16, STEFは4・66点と改善した.食事はバネ箸を使用していたが普通箸獲得の希望があった.そこで普通箸の獲得を主目標に据えmCI療法を56病日から3週間毎日実施した.OTSが実習で症例に関わっていた.本研究について症例に説明し書面で同意を得た.
【介入方針】
 手指の分離練習,ROM訓練,仕事を想定した動作練習といった通常介入とmCI療法を併用した.mCI療法の行動契約での目標は,普通箸,歯ブラシ,細い物のつまみ上げ,車のハンドル,書字が挙がった.副目標として1週間ごとに複数の麻痺手の病棟生活での使用動作を選択・更新し,これらの使用動作をMAL-QOMで毎日採点し麻痺手の使用を促した.mCI療法は箸や副目標達成のためのTask practice課題やTransfer packageを中心に約1~1.5時間をOT内で実施した.自主練習では箸のShaping課題を中心にOTS出勤時はOTSが付き添い1時間実施し,ReoGo-Jを1回30分1~2回実施した.箸のShaping・Task practice課題は当院OTで作成した自作のYouTube動画を見ながら練習した.また巧緻動作課題としてブロックの組み立て作業を空き時間で実施した.加えて巧緻性の改善が報告されている末梢神経電気刺激をShaping・Task practice課題,仕事を想定した動作練習に併用しながら介入した.
【経過】
 麻痺手の使用動作は,箸,歯ブラシ,シェーバー,ドライヤー,ストロー,書字が挙がり,これらのMAL-QOMは3~4点で推移した.普通箸は介入1週間で昼食・夕食時に6割ほど使用でき,徐々に使用時間が増え76病日にバネ箸の提供が終了した.本介入後のFMAは64点,MAL-AOUは4.65,MAL-QOMは4.2, STEFは75点となり,100病日に自宅退院し復職に至った.
【考察】
 本介入は複数の介入を併用したため動画を用いたmCI療法の効果は明らかにできないが,目標である普通箸は獲得でき動画を見ながら問題なく自主練習を継続できた.FMA,MAL,STEFの利得は介入前より介入後の方が低く,これは入院時の各検査値が低く介入前に著明な機能回復が生じ介入時は天井効果が生じたと考えた.回復期ではADL向上,退院支援など介入は多岐に渡り,一対象者に提供する練習課題の作成にさける時間は限りがある.目標となる麻痺手の生活での使用動作ごとに練習内容をYouTube動画で共有すれば,動画を見ながらの練習をOTの経験年数によらず活用でき介入の標準化や,また一度動画を作成すればその作成にかかる労力は必要ではあるが複数の対象者の練習で利用でき業務時間の効率化につながる可能性がある.当院では箸以外に現在5動作の練習動画を作成しており,今後はmCI療法における有用性を検証していきたい.