第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

Fri. Nov 10, 2023 11:00 AM - 12:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-1-3] 本人・家族と大切な作業を共有したことで,本人の主観的QOLが向上した事例

佐竹 祐輝1, 大庭 健嗣1, 袴田 巌1, 泉 良太2 (1.すずかけセントラル病院 診療技術部 リハビリテーション科, 2.聖隷クリストファー大学 リハビリテーション学部 作業療法学科)

【はじめに】Levackら(2015)によって,目標設定を行うとQOL向上に効果があると報告されているが,目標設定へ家族が関与した報告は少なく,家族も含めた目標設定が必要ではないかと考えた.本事例は,本人・家族・OT間で作業選択意思決定支援ソフト(Aid for Decision-making in Occupation Choice:以下ADOC)を用いて,目標共有を行い,本人の主観的QOLに変化が見られた為,ここに報告する.尚,今回の発表に関して開示するCOIは無く,本人・家族からの同意を得ている.
【事例紹介】80歳代男性,妻・長女と3人暮らし,長男夫婦・孫と週2回の交流があった.X-27病日に回転性めまいがあり,左小脳出血と診断された.X病日に当院回復期病棟に転院した.既往歴として,下咽頭癌術後でカニューレ留置し,発声は困難であった.
【OT初期評価(X+1病日~5病日)】ADOC(遂行度/満足度{1~5(良い)})を用いて本人と面接を行った結果,パソコン(iPad使用)1/1であった.QOL評価にはSEI-QoL(個人の生活の質について,個人が抽出した領域の満足度や重みづけを行う評価法)を用いて,本事例は,家族との交流を抽出し,レベル25/重み35%と,「レベル<重み」であった.身体機能は,運動麻痺や可動域制限・筋力低下は認めず. 失調評価のSARAは10.5点,バランス評価のBBSは17点と低下があった.FIMは運動項目44点,認知項目29点であり,ADLに見守り~軽介助が必要な状態であった.
【OTの基本方針】病棟での各ADLがFIMで7点となり,iPadを使用して,家族と連絡を取れるとした.
【OTアプローチ・経過】<家族との連絡手段の獲得期>ADOCで挙がったパソコンは家族と連絡を取る為に選択をしていた.X+2病日から持参のiPadを使用して実施した.X+6病日に家族へ自らメールで連絡を取ることが可能となった.その後,家族とは毎日連絡を取り,ADOCでパソコン4.5/4と向上が見られた.
<本人・家族・OT間での目標共有期>X+36病日でのSEI-QoLは,家族との交流がレベル30/重み40%へと向上した.ADOCでは家族との交流を選択され2/2と低値であった.本人から「元通りに家族の一員として生きたい」と話される.家族からも,「祖父として家に戻ってきて孫とふれあっていく生活を出来るだけ続けて欲しい」と希望が聞かれた為,本人・家族・OT間での共有目標を祖父としての役割獲得として,孫を抱っこ・受け止めることが出来るとした.
<本人・家族・OT間での目標の再共有期>X+82病日より家族見学を行い,本人・家族・OTで共有した目標の孫を抱っこ・受け止める動作を模擬的に確認した.立位で行い,動揺なく安定していた.家族から新たに,孫たちとキャッチボールが出来ないかと希望が聞かれ,新たな共有目標を孫とキャッチボールが出来るとした.
【結果】入院期間中に,本人・家族・OT間での共有目標は達成した. ADOCで家族との交流は4.5/5へと向上し,SEI-QoLについても,家族との交流がレベル75/重み40%へと向上した. SARAは2.5点, BBSは52点と向上し,FIMは運動項目89点,認知項目35点であり,ADLは自立された.
【考察】Lynneら(2015)は患者・家族の目標と満足度が,目標達成度の向上に関連があると報告がある.小沼ら(2016)は活動を継続し,目標が達成することでQOLが向上すると報告がある.本事例も,ADOCを使用して,本人・家族と目標共有を行い,本人の遂行度・満足度が向上し,目標は達成した.又,家族から新たな目標が聴取され,本人・家族間の大切な作業活動が更新され,継続したアプローチが可能となり,目標を達成した.それらにより,SEI-QoLの家族との交流に対する重要性が向上したと推察される.
今回の経験から,家族を含めた目標共有は本人の主観的なQOL向上に影響することが示唆された.