[PA-1-7] 箸操作による知覚探索が語りの変化につながった事例
【はじめに】作業選択意思決定支援ソフト(Aid for Decision-making in Occupation Choice:ADOC)は,対象者とOTがそれぞれ重要な作業を選択し,協業しながら目標設定を図る為のアプリケーションシステムである.今回,リハビリが順調に進み,病棟ADLが自立となった脳出血の事例を担当した.本事例に対して,ADOCによる再評価を実施したところ,箸操作に対する訴えが聞かれた.箸操作による知覚探索の経験を通して,箸操作の効率性が向上すると共に,語りに変化がみられ,共食という作業の意味を共有することや満足度の向上につながった為,以下に報告する.なお,本報告に際して,本人に説明を行い,書面にて同意を得ている.
【事例紹介】70歳代男性,左利き.病前は介護職として生計を立てており,独居にて生活を送っていた. 趣味は柔道で,学生時代からの柔道仲間と交流が続いていることを聞き取った.X年Y月Z日に橋出血の診断で保存的加療を受けた後,Z+22日に当院,回復期リハビリ病棟へ入院となった.入院時は,中等度の体幹失調,軽度の注意障害や協調運動障害を認めていた.Z+53日目には,身体機能の向上を認め,FIMの運動項目87点,認知項目31点と病棟ADLは自立となった.このときの簡易上肢機能検査 (以下,STEF)は,右84点,左86点であった.SARAは8/40点で,軽度の体幹失調と手指の協調運動に低下を認めていた.複視や眼振などの問題は認めなかった.
【経過】前期(介入~1週):病棟ADLが自立し,屋外歩行の実施やADL動作などが行えていく中で,ADOCによる再評価を実施した.項目としては,食事(満足度4),排泄(5),仕事(3),炊事(5),洗濯(5)が挙げられた.各項目における事例の意図を聴取したが,食事に対して,「箸の操作が難しい」「はっきりと喋ることができない」と身体機能面の訴えが強く,作業の意味を共有するには至らなかった.その為,まずは食事場面での箸操作を観察し,上手くいかないことや困っていることの語りを確認する段階から開始した.
中期(1~3週):食事場面での箸操作の問題点を共有する為に,動画を用いて訓練内容をフィードバックする方法を実施した.事例の気づきを促しながら,箸操作による知覚探索の訓練を提供していく中で,事例の語りに変化がみられ,「最近,手の感じがよくなっている」「帰ったらラーメンが食べたい」など食事に対する具体的な内容が挙がるようになった.
後期(3~5週):食事に対する具体的な内容が挙がると共に,「実は,正月に柔道仲間の家で雑煮を食べる予定なんだ.同じ釜の飯を食った友人とその家族で食べるからにぎやかでね」と開始時には語られなかったエピソードが聞かれた.この頃には,「たまに上手くつまめないことがあるけど,だいぶ良くなった」「友人との食事が楽しみだ」などポジティブな発言が聞かれるようになった.
【結果】食事に対するADOCの満足度は4→5,STEF は右92点,左93点となり,手指の協調運動に向上を認めた.語りを通して,事例における食事は,友人との共食に価値があったことを共有することができた.コロナ禍の為,病院での共食は難しいが,距離をとる中でOTとの会話を楽しみながら,箸の操作ができるようになった.
【考察】箸操作による知覚探索の経験を通して,友人との食事の中で箸操作を円滑に行うことができると予測した結果,自己効力感の向上や共食という作業の意味を共有することにつながったと考える. 共食は,ストレスの軽減や自身の健康を実感することにつながる(Kimuraら,2012)と報告されている為,本事例においても良い効果をもたらすことが考えられた.
【事例紹介】70歳代男性,左利き.病前は介護職として生計を立てており,独居にて生活を送っていた. 趣味は柔道で,学生時代からの柔道仲間と交流が続いていることを聞き取った.X年Y月Z日に橋出血の診断で保存的加療を受けた後,Z+22日に当院,回復期リハビリ病棟へ入院となった.入院時は,中等度の体幹失調,軽度の注意障害や協調運動障害を認めていた.Z+53日目には,身体機能の向上を認め,FIMの運動項目87点,認知項目31点と病棟ADLは自立となった.このときの簡易上肢機能検査 (以下,STEF)は,右84点,左86点であった.SARAは8/40点で,軽度の体幹失調と手指の協調運動に低下を認めていた.複視や眼振などの問題は認めなかった.
【経過】前期(介入~1週):病棟ADLが自立し,屋外歩行の実施やADL動作などが行えていく中で,ADOCによる再評価を実施した.項目としては,食事(満足度4),排泄(5),仕事(3),炊事(5),洗濯(5)が挙げられた.各項目における事例の意図を聴取したが,食事に対して,「箸の操作が難しい」「はっきりと喋ることができない」と身体機能面の訴えが強く,作業の意味を共有するには至らなかった.その為,まずは食事場面での箸操作を観察し,上手くいかないことや困っていることの語りを確認する段階から開始した.
中期(1~3週):食事場面での箸操作の問題点を共有する為に,動画を用いて訓練内容をフィードバックする方法を実施した.事例の気づきを促しながら,箸操作による知覚探索の訓練を提供していく中で,事例の語りに変化がみられ,「最近,手の感じがよくなっている」「帰ったらラーメンが食べたい」など食事に対する具体的な内容が挙がるようになった.
後期(3~5週):食事に対する具体的な内容が挙がると共に,「実は,正月に柔道仲間の家で雑煮を食べる予定なんだ.同じ釜の飯を食った友人とその家族で食べるからにぎやかでね」と開始時には語られなかったエピソードが聞かれた.この頃には,「たまに上手くつまめないことがあるけど,だいぶ良くなった」「友人との食事が楽しみだ」などポジティブな発言が聞かれるようになった.
【結果】食事に対するADOCの満足度は4→5,STEF は右92点,左93点となり,手指の協調運動に向上を認めた.語りを通して,事例における食事は,友人との共食に価値があったことを共有することができた.コロナ禍の為,病院での共食は難しいが,距離をとる中でOTとの会話を楽しみながら,箸の操作ができるようになった.
【考察】箸操作による知覚探索の経験を通して,友人との食事の中で箸操作を円滑に行うことができると予測した結果,自己効力感の向上や共食という作業の意味を共有することにつながったと考える. 共食は,ストレスの軽減や自身の健康を実感することにつながる(Kimuraら,2012)と報告されている為,本事例においても良い効果をもたらすことが考えられた.