第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-1] ポスター:脳血管疾患等 1

2023年11月10日(金) 11:00 〜 12:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-1-8] コイル塞栓術後に脳出血が生じ高次脳機能障害を呈した事例の臨床経過

籔下 諒1, 花田 恵介1, 徳田 和宏1, 海瀬 一也1, 藤田 敏晃2 (1.阪和記念病院リハビリテーション部, 2.阪和記念病院脳神経外科)

【事例紹介】50歳代女性,右利き.娘2人と同居し家事役割を担っていた.前交通動脈瘤に対するコイル塞栓術を目的に入院.術後に右前頭葉内側面,大脳鎌近傍に広範な脳出血を認めた.開頭血腫除去術を実施され翌日リハビリテーションを開始.介入開始時は呼びかけで開眼あるも発語はなく,上下肢BRSⅠの強い左片麻痺を認めた.発症から約1ヶ月かけて左上下肢はBRSⅤまで向上した.体性感覚障害もなかった.ただし左手の把握現象や左手の観念運動性失行,左手左空間でのUtilization Behavior,左手の半側空間無視,右手の強迫的使用を認めた.すなわち脳梁前部〜体部の離断症状があった.加えて,一時期に妊娠妄想や亡き夫がそばにいると確信して話すNurturing症候群を認めた.急性期作業療法では,左上肢の課題指向型練習や両手動作練習とトイレ動作などのADL練習,それを模したバランス練習を行った.自宅での家事を含めた生活動作再獲得を目的に回復期病棟に転棟した.なお発表に際し本人へ説明を行い,書面にて同意を得ている.
【回復期入棟時(第98病日)】上肢機能はFMA55/66,ARAT57/57で軽度の麻痺があった.CAHAIは72/91で両手動作に拙劣さを認めた.また,数唱は(順6/逆)6/4,視覚性スパンは(順4/逆)4/3,TMT-A74秒B実施困難で注意障害があった.BITは右手144/146,左手128/146で左手使用時の半側空間無視があった.FIM運動44/91,FIM認知20/35であった.作業遂行評価のためAMPSによるトーストを焼き,お湯を沸かし紅茶を入れる.洗濯物を物干しにかける課題を行った.結果は,運動技能1.2logitプロセス技能0.6logitであった.
【介入】AMPSによる課題場面にて方向転換時にふらつき,転倒する危険があった.また,動作開始に躊躇する,パンにバターを塗る際,左手が支持手として使用できないなどがあった.対象者は「何をしたら良いかわからなくなった」と訴えた.本人と面接し「日中に家事動作を見守りなしに出来る」ために「①軽食の用意が出来る②洗濯ものを干して取り込める③一人で入浴が出来る」ことを合意目標とした.作業療法は実動作練習と床上でのバランス練習を主に行った.実動作練習では作業課題を開始する前に,作業内容全体を把握すること,取り組む順番を決めること,決めた順番で遂行することとした.実施後には毎回振り返りを行い,どの過程でつまずきがあったかの気づきを促すようフィードバックした.併せて,膝立ちでの床上移動など自宅での和式生活を想定した動作練習も行った.初めて行う課題はいずれも混乱したり立位バランスを崩したりする反応が幾度も見られたが,振り返りを重ねることで動作の誤りは減少し,対処法も習得できた.最終的には,棚の下段より物品を取り出す際の動作時でもふらつきはなくなり,課題の遂行もスムーズになった.
【退院時評価(第174病日)】FMA57/66,ARAT57/57,CAHAI85/91,FIM運動90/91認知35/35,BIT右手146/146,BIT左手134/146,TMT-A57秒B123秒であった.AMPSはトーストを焼き,お湯を沸かして紅茶を入れる,軽めの家具を動かしながら掃除機をかける課題を行ったところ,運動技能2.0logit,プロセス技能1.3logitであり,在宅復帰カットオフ値を上回っていた.また退院時にこれらの結果を家族に示し,日常生活で自立できる点と留意が必要な点を指導し自宅退院となった.
【考察】本症例は多彩な高次脳機能障害を呈していた.個別の現象に対する介入だけでなくAMPSを併用することにより課題指向的な作業技能を抽出し介入し良好な改善を得た.多彩な現象がある場合,AMPSによる包括的な評価は明確な目標を設定と介入に有用となる可能性が示唆された.