第57回日本作業療法学会

Presentation information

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-1] 多職種によるラウンドの実施は脳卒中後肩関節疼痛発生を軽減できるか

櫻井 美穂1, 佐藤 万美子2, 山田 克範1, 酒井 涼3 (1.福井総合病院リハビリテーション課 作業療法室, 2.福井総合病院リハビリテーション科, 3.福井医療大学保健医療学部 リハビリテーション学科)

【背景と目的】脳卒中後肩関節疼痛は,上肢機能や日常生活動作の回復に影響をきたしやすい.しかし,その発生を軽減させる方法は未だ明確になっていない.当院回復期リハビリテーション病棟(以下,回リハ病棟)では2016年から作業療法士・医師・理学療法士・看護師らとともに,病棟内の脳卒中後片麻痺患者を対象にラウンドを実施している.ラウンドでは上肢機能や疼痛・高次脳機能障害・生活状況の評価をもとに肩関節疼痛発生予防や疼痛改善方法を検討している.ラウンド後の対応は,装具の選定や服薬調整・生活指導等,多岐にわたる.今回,ラウンドの実施が回リハ病棟在棟中の肩関節疼痛の発生に対し効果があったかを後方視的に調査したため報告する.なお,本研究は当院倫理審査委員会での承認を受けており,演題発表に関連し開示すべきCOI関係にある企業等はない.
【対象と方法】ラウンド開始前後1年間に当院回リハ病棟に入棟した症例を対象とした.非ラウンド群は2015年4月から2016年3月に当院回リハ病棟を退棟した片麻痺を有する脳卒中患者44名.ラウンド群は2017年4月から2018年3月に当院回復期病棟を退棟し,ラウンドを実施した脳卒中片麻痺患者47名.重度意識障害(JCS2~3桁)・再発・肩関節に影響を及ぼす合併症を有する患者を除外した. 対象者において,回リハ病棟入棟時の肩関節疼痛の有無,在棟中の肩関節疼痛発生の有無,発生時期を電子カルテ及びラウンド時の評価より抽出した.抽出した結果をもとに非ラウンド群・ラウンド群間でハザード比(HR)とその95%信頼区間(95%CI)を算出した.また,カプランマイヤー法とログランク検定を行い,疼痛発生率を比較した.さらに,両群間の入棟時における年齢・性別・発症から入棟までの日数・上肢上田式12段階片麻痺機能テスト(以下,上田式) の上肢・手指をそれぞれ対応のあるt検定により比較した.危険率は5%未満とした.統計解析にはezrを用いた.
【結果】非ラウンド群:対象者44名中入棟時に疼痛を有したのは14名,疼痛なしは30名.さらに入棟時に疼痛を認めなかった30名中,在棟中の疼痛発生者は16名,非発生者は14名であった.ラウンド群:対象者47名中入棟時に疼痛を有したのは17名,疼痛なしは30名.入棟時に疼痛を認めなかった30名中,在棟中の疼痛発生者は4名,非発生者は26名であった.在棟中の疼痛発生率は優位にラウンド群で低かった(HR=0.175,95%CI= 0.05792-0.5259,p=0.005).非ラウンド群・ラウンド群において回リハ病棟入棟時の年齢・性別・発症から入棟までの日数・上田式(上肢・手指)に有意差はみられなかった.
【考察】ラウンド開始前後の1年間における肩関節疼痛発生率の比較から,ラウンド開始後に在棟中の肩関節疼痛発生率が減少していることが明らかになった.多職種でラウンドを実施し包括的な対応を検討・実践することで,作業療法場面や病棟生活における疼痛発生因子の抑制に効果的であったのではないかと考えられる.また,ラウンド実施による病棟スタッフの疼痛予防に対する意識の向上もその一助になっている可能性がある.一方で,疼痛の発生要因は一様ではなく,障害の程度や生活様式に合わせた効果的な疼痛予防方法や疼痛発生後の対応については,明確な基準がない.そのため,それぞれの対応方法と予防効果の関連性について今後追跡調査を行っていく.