第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-15] 脳卒中後重度上肢麻痺患者に対する経頭蓋直流電気刺激の神経学的影響;症例研究

芝 貴裕1, 蓮井 成仁1,4, 水田 直道3,5, 田口 潤智2, 森岡 周4,5 (1.医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院 療法部, 2.医療法人尚和会宝塚リハビリテーション病院 診療部, 3.日本福祉大学健康科学部, 4.畿央大学大学院健康科学研究科, 5.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター)

【はじめに】
脳卒中後の上肢運動麻痺の神経学的な回復指標として,指伸筋の皮質脊髄路(CST)の興奮性に着目されることがある.特に,身体遠位部の運動実行においては,損傷側のCSTの興奮性を高めることが重要であるとされる.経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は,脳卒中後の損傷半球の運動関連領野の活動を増加させることが示されている.しかし,Anodal-tDCS ,Bihemispheric-tDCS(Bi-tDCS)による上肢運動中の遠位部の筋活動パターンや神経活動への影響の違いについて,さらには回復の経時的変化に関する報告は見当たらない.本研究の目的はAnodal-tDCS とBi-tDCSが上肢運動中の前腕筋に及ぼす神経学的影響を一症例にて検証することである.
【方法】
対象は心原性脳塞栓症を発症し左上下肢麻痺を認めた70歳代女性である.発症後58病日の身体機能は, Fugl-Meyer-Assessment(FMA)28点(肩27/手関節1点/手指0点)であった.データは後ろ向きに収集した.発症後61〜67日と83〜90日(A1とA2)に右一次運動野(M1)陽極,左前額部に陰極のAnodal-tDCS,発症後72〜79日と発症後95〜102日(B1とB2)に右M1陽極,左M1陰極のBi-tDCSを併用し,各7日間実施した.手関節背屈および手指伸展の2条件が設定し,ランダムに実施した.表面筋電図(Gait Judge System)を用い,麻痺側の総指伸筋(ED)及び浅指屈筋(FDS)の近位部ならびに遠位部(計4箇所)に貼付し,2筋間の同時収縮指数(CI)を算出した.また, ED-EDの筋電図波形に対するウェーブレットコヒーレンス解析により,α帯域(8-13Hz),β帯域(15-30Hz)の活動比を算出した .値はベースライン,A1,B1,A2,B2 の5時点から傾きを算出しトレンド除去した.また,各A期とB期の平均でα及びβ帯域で変化量が高い方法を抽出し,1ヵ月間使用した.
【結果】
B2期終了時のFMAは42点であった.コヒーレンスの変化量(A1/B1/A2/B2)は,α帯域のED-EDで手関節:0.017/-0.003/0.034/0.097,手指:0.006/-0.020/0.011/0.056,β帯域のED-EDで手関節:0.015/0.005/0.011/0.061,手指:0.013/-0.007/0.001/0.029とα及びβ帯域のコヒーレンスはB期で増大した.変化量の平均(A/B)としてα帯域で手関節:0.025/0.093,手指:0.008/0.018,β帯域で手関節:0.013/0.033,手指:0.007/0.010であったことからB期を1ヵ月行った.結果はFMA46点,コヒーレンスは(手関節/手指)α帯域で0.407/0.294,β帯域0.311/0.297と増加を認めた.CIはA期及びB期で変化を認めなかった.
【考察】
各期のα及びβ帯域コヒーレンスに関して,A期と比較してB期で変化量の改善を認めた.これに関してはBi-tDCSの効果によるものと考え,半球間抑制のメカニズムが関与していることが示唆された.一方,β帯域と比較してα帯域のコヒーレンス値が高値を示した.β帯域は皮質脊髄路,α帯域は網様体脊髄の興奮性を表すことが示唆されていることから,上肢遠位筋が重度麻痺している症例において,Bi-tDCS は網様体脊髄路の興奮性が代替的に機能した可能性が推察される.
【倫理的配慮(説明と同意)】
ヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護に十分に留意し,対象者には同意を得た後に実施した.