第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

2023年11月11日(土) 14:10 〜 15:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-19] 一般病棟または地域包括ケア病棟から退院する脳卒中患者の違いについて

上島 裕貴1, 蔵垣内 明里1, 竹岡 亨1, 稲岡 秀陽1, 平井 誠2 (1.医療法人同仁会(社団) 京都九条病院リハビリテーション部, 2.医療法人同仁会(社団) 京都九条病院脳神経外科)

【はじめに】2014年度の診療報酬改定に伴い,地域包括ケア病棟入院料が新設され,脳卒中患者の中にも,一般病棟で急性期治療を終えた後,地域包括ケア病棟を利用して自宅退院を目指すケースが増加している.一般的に,脳卒中患者の予後予測因子については,Functional Independence Measure(FIM)やStroke Impairment Assessment Set(SIAS)などが有用とされ,回復期リハビリテーション病院への転院の目安などの推察に広く利用されている.一方,地域包括ケア病棟を経由して自宅退院した脳卒中患者に関する報告はまだ少なく,地域包括ケア病棟を経由して自宅退院するべきか否かを判断する基準は明確ではない.そこで,本研究では自宅退院した脳卒中患者の中で,一般病棟から直接自宅退院した患者と地域包括ケア病棟を経由し自宅退院した患者の違いについて検討した.
【目的】本研究の目的は,地域包括ケア病棟を利用した脳卒中患者のFIMやSIAS等を用いて,その特徴を調査し,地域包括ケア病棟を利用するための判断基準作成に寄与することである.
【方法】対象は,2022年1月~2023年2月に脳卒中と診断され,急性期病棟または地域包括ケア病棟から自宅退院した患者51名(年齢72.4±9.8歳)である.
対象者を,一般病棟から退院した患者(通常群)と地域包括ケア病棟から退院した患者(地域包括ケア群)に分類し,在院日数,入院時のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),リハビリ開始時のFIM,SIAS,非麻痺側の握力,要介護度の割合をそれぞれ比較した.統計解析は,2群間の在院日数,FIMおよび非麻痺側の握力の比較には,対応のないt検定を,SIASおよびNIHSSの比較には,Mann-WhitneyのU検定を用いた.要介護度の割合の比較には,カイ二乗検定を実施した.有意水準はそれぞれ5%とした.
 なお,対象者およびその家族には,本研究の目的とともに,研究への参加を断っても不利益になることは全くないこと,いつでも同意を撤回出来ることを説明し,参加の同意を得た.また,検査結果は医学研究のために使用されるが,個人情報は当法人の診療情報管理規定に基づいて適切に管理され,ヘルシンキ宣言を遵守し,個人を特定できる情報が明らかになることは一切ないことも説明し,理解を得た.
【結果】自宅退院した患者の内,通常群は32名(63%),地域包括ケア群は19名(37%)であった.要介護認定を受けていた割合は,通常群2名(6.3%),地域包括ケア群は7名(36.8%)で,地域包括ケア群が有意に高い割合を示した(p<0.05).
2群間の各評価項目を比較した結果,在院日数は,通常群19.2±7.8日,地域包括ケア群55.2±24.8日で通常群の方が有意に短かった(p<0.05).リハビリ開始時のFIMは,通常群89.3±28.1点,地域包括ケア群62.8±24.8点で通常群が有意に高い値を示し(p<0.05),非麻痺側の握力も通常群27.4±11.3㎏,地域包括ケア群21.6±7.2㎏で通常群が有意に高い値を認めた(p<0.05).また,SIASは,通常群71.3±5.7点,地域包括ケア群66.5±7.4点で,通常群が地域包括ケア群よりも得点が高くなる傾向を認めた(p=0.051).一方,NIHSSは有意な差を認めなかった(p=0.34).
【結論】脳卒中の重症度を評価できるとされているNIHSSには2群間に有意な差を認めなかった.これは,地域包括ケア群で,要介護認定を受けていた割合が高かったことや,全身筋力の指標とされる握力(非麻痺側)が低かったことから,発症前にフレイルの状態であった可能性が影響していると考えられる.
リハビリ開始時にADLが自立していないケースでは,地域包括ケア病棟を検討する必要があることが示唆された.