[PA-10-4] 高齢化地域における急性期脳卒中患者の転帰に関する因子の検討
はじめに
脳卒中患者の転帰に関わる因子は多くの報告がされている.しかし,多くの報告では,対象患者の平均年齢が60歳代から70歳代前半(2015澤田,2012八木,2015磯)と,長野松代総合病院(以下当院)の脳卒中患者(平均70歳代後半)と比較すると若い年齢層である.本研究の目的は,当院の急性期脳卒中患者を対象に転帰を予測する因子を検討することとした.
対象と方法
2021年4月から2022年11月までに当院に脳出血,脳梗塞,くも膜下出血の診断により入院し,期間内に退院した患者とした.除外基準は,入院前の居住地が自宅以外であった例,入院中に他疾患の発症により転科した例,死亡退院であった例とした.上記基準を満たす150名(自宅退院91名,非自宅退院59名),(平均年齢77±11.9歳)を本研究の対象とした.調査項目は,年齢,性別,住環境,Glasgow Coma Scale(GCS),Brunnstrom Stage(BRS)上肢・手指・下肢,NIHSS,m-FIM,c-FIMとした.機能評価は入院から3日以内の初期評価を使用した.統計方法は,自宅退院91名を自宅群,非自宅退院59名を非自宅群とした転帰を目的変数,調査項目を説明変数とし,決定木分析(CART法)を実施した.150名をランダムに105名と45名(7:3)に振り分け,105名で決定木分析を実施し,モデルを作成した.さらに45名でConfusion Matrixにより,得られたモデルの有用性の確認を行い,感度,特異度を算出した.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得ている.
結果
105例の決定木分析の結果より,第1層ではNIHSSが選択された.cutoff値は6.5点であり,6点以下の59名は自宅退院予測,7点以上の46名は第2層の分析へ進んだ.第2層ではm-FIMが選択された.cutoff値は24点であり,24点以下の36名は非自宅退院予測,25点以上の10名は第3層の分析へ進んだ.第3層ではc-FIMが選択された.cutoff値は24.5点であり,24点以下の5名は非自宅退院予測,25点以上の5名は自宅退院予測となった.このモデルをConfusion Matrixにより有用性を確認した結果は,自宅退院予想29名中,実際の自宅退院は25名,非自宅退院予想16名中,実際の非自宅退院は13名であった.この結果からモデルの感度86.2 %,特異度81.2 %が算出された.
考察
決定木分析より,転帰に最も影響している因子はNIHSSであった.NIHSSが転帰を予測する因子であることは既に報告されているが当院のcutoff値は6.5点と先行研究(2015磯,2012八木)のcutoff値(3~3.5点)と,比較すると僅かに高い.つまり,先行研究に比べ初期評価の点数では,重症と判断されても自宅退院が可能になっている.これは,本研究対象者の平均年齢が高いため,脳卒中の症状とは別に加齢に伴う身体機能や認知機能の低下がcutoff値に影響を与えたと考えられる.決定木の第2,3層ではm-FIM,c-FIMが選択された.NIHSSのcutoff値に関わらず,m-FIM,c-FIMのcutoff値を上回り自宅退院となった例が一定数存在しており,予後予測には複数の因子を考慮して検討していく必要があると考えられる.本研究により転帰を予測する因子は当院も先行研究(2015澤田,2012八木,2015磯)と大きな差異はなく,入院早期よりある程度,予測可能であることが示唆された.本研究の結果をもとに早期より,退院先に応じた作業療法が実施可能となると考えられる.自宅退院が予測される場合は,家屋環境に応じたADL訓練や自宅での生活行為に焦点を当てたアプローチが可能になり,非自宅退院と予測される場合は,転院等を視野に入れた退院支援を円滑に行えると考えられる.また,早期より予測を患者,家族に説明することで心理面での受け入れについても支援することができると考えられる.
脳卒中患者の転帰に関わる因子は多くの報告がされている.しかし,多くの報告では,対象患者の平均年齢が60歳代から70歳代前半(2015澤田,2012八木,2015磯)と,長野松代総合病院(以下当院)の脳卒中患者(平均70歳代後半)と比較すると若い年齢層である.本研究の目的は,当院の急性期脳卒中患者を対象に転帰を予測する因子を検討することとした.
対象と方法
2021年4月から2022年11月までに当院に脳出血,脳梗塞,くも膜下出血の診断により入院し,期間内に退院した患者とした.除外基準は,入院前の居住地が自宅以外であった例,入院中に他疾患の発症により転科した例,死亡退院であった例とした.上記基準を満たす150名(自宅退院91名,非自宅退院59名),(平均年齢77±11.9歳)を本研究の対象とした.調査項目は,年齢,性別,住環境,Glasgow Coma Scale(GCS),Brunnstrom Stage(BRS)上肢・手指・下肢,NIHSS,m-FIM,c-FIMとした.機能評価は入院から3日以内の初期評価を使用した.統計方法は,自宅退院91名を自宅群,非自宅退院59名を非自宅群とした転帰を目的変数,調査項目を説明変数とし,決定木分析(CART法)を実施した.150名をランダムに105名と45名(7:3)に振り分け,105名で決定木分析を実施し,モデルを作成した.さらに45名でConfusion Matrixにより,得られたモデルの有用性の確認を行い,感度,特異度を算出した.本研究は当院倫理審査委員会の承認を得ている.
結果
105例の決定木分析の結果より,第1層ではNIHSSが選択された.cutoff値は6.5点であり,6点以下の59名は自宅退院予測,7点以上の46名は第2層の分析へ進んだ.第2層ではm-FIMが選択された.cutoff値は24点であり,24点以下の36名は非自宅退院予測,25点以上の10名は第3層の分析へ進んだ.第3層ではc-FIMが選択された.cutoff値は24.5点であり,24点以下の5名は非自宅退院予測,25点以上の5名は自宅退院予測となった.このモデルをConfusion Matrixにより有用性を確認した結果は,自宅退院予想29名中,実際の自宅退院は25名,非自宅退院予想16名中,実際の非自宅退院は13名であった.この結果からモデルの感度86.2 %,特異度81.2 %が算出された.
考察
決定木分析より,転帰に最も影響している因子はNIHSSであった.NIHSSが転帰を予測する因子であることは既に報告されているが当院のcutoff値は6.5点と先行研究(2015磯,2012八木)のcutoff値(3~3.5点)と,比較すると僅かに高い.つまり,先行研究に比べ初期評価の点数では,重症と判断されても自宅退院が可能になっている.これは,本研究対象者の平均年齢が高いため,脳卒中の症状とは別に加齢に伴う身体機能や認知機能の低下がcutoff値に影響を与えたと考えられる.決定木の第2,3層ではm-FIM,c-FIMが選択された.NIHSSのcutoff値に関わらず,m-FIM,c-FIMのcutoff値を上回り自宅退院となった例が一定数存在しており,予後予測には複数の因子を考慮して検討していく必要があると考えられる.本研究により転帰を予測する因子は当院も先行研究(2015澤田,2012八木,2015磯)と大きな差異はなく,入院早期よりある程度,予測可能であることが示唆された.本研究の結果をもとに早期より,退院先に応じた作業療法が実施可能となると考えられる.自宅退院が予測される場合は,家屋環境に応じたADL訓練や自宅での生活行為に焦点を当てたアプローチが可能になり,非自宅退院と予測される場合は,転院等を視野に入れた退院支援を円滑に行えると考えられる.また,早期より予測を患者,家族に説明することで心理面での受け入れについても支援することができると考えられる.