[PA-10-6] 医療者側の予測に反して病前の役割を再獲得した症例
【はじめに】活動意欲は高いものの認知機能低下もあり,歩行時のふらつきへの配慮が困難で見守りが外せない状態で退院となった症例を担当した.同居家族が症例に常に付き添うことは困難と判断して自宅環境調整を行ったが,容易に転倒が起こり得ることが予測された.しかしながら,医療者側の予測に反して自宅での生活を送る中で環境に適応し,転倒なく病前と同等の生活を送ることができる状態にまで至った.退院後の予測を行う上で弱みと捉えていた患者・家族特性が強みとなった症例を経験したため,考察を加えて報告する.今回の発表に際し,本人,家族の同意を得ている.
【症例紹介】70歳代女性.夫,室内犬2匹との生活.病前のADLは自立.既往にアルツハイマー型認知症の診断あり.延髄梗塞を発症し,当院の急性期・回復期リハビリテーション病棟を経て,第135病日に自宅退院した.その後,訪問リハビリテーションを行い,第204病日に訪問リハビリテーションを終了した.
【経過】入院時:急性期にて作業療法開始時はHDS-R:9/30,体幹・右下肢に運動性失調を認め,基本動作・肘起き歩行器歩行中等度介助レベルであった.回復期にて作業療法開始時のADLはFIM合計56点.入院中に車椅子で4回の離棟があり,監視が外せない状態であった.
退院時:介護度は要介護4と認定された.ADLは退院時FIM合計90点で,手すりを使用しての伝い歩きは監視レベル,独歩は一部~中等度介助レベルであった.歩行時のふらつきへの配慮が困難なことで転倒リスクが高く,退院まで離床センサーにて対応し終日車椅子監視となっていた.運動機能面では著明な運動麻痺・感覚障害はないものの,体幹・右下肢の運動性失調は残存していた.FBSは38/56点.高次脳機能面では,HDS-R:19/30,FAB:11/18,TMT—J:Aは異常,Bは時間切れで中止した.注意機能低下により歩行中も周囲へ注意が逸れることが多く,ふらつきによる転倒の危険性が高かった. 夫は症例の転倒リスクが高いことは理解していたが,常に見守ることは困難であるとの発言があった.転倒を予防するため,自宅内を伝い歩きで移動できる環境に調整し,玄関の外へは一人で出られないようにゲージを設置し退院した.
退院後:デイサービスを週3回利用し,生活状況の確認・指導のため,OT・PTが週1回ずつ訪問リハビリテーションを行うことになった.自宅環境は,リビングや廊下には犬の布団やペットシーツが敷いてあり,犬の尿汚染部分を踏まないように注意し歩行する必要があり,移動時の障害物が多い状態であった.
【結果】バランス能力はFBSに変化はなかった.ふらつきに対しても,自己にて配慮が可能となった.夫は,活動意欲の高い症例をあまり抑制しなかったこともあり,退院直後に3回の転倒があったものの,訪問リハビリテーション終了時は伝い歩きが自立し,転倒もなくなった.また,洗濯や掃除などの役割活動も自立した.自宅内は犬が2匹とも放し飼いされているため,手すりや支持物を使用して,犬やペットシーツを避けながら移動し,また犬の世話もできていた.
【考察】入院生活では,医療者側の心理として転倒を未然に防ぎたいあまり,患者に対して容易に活動制限を設けてしまう傾向にある.本症例においては自宅という慣れた生活の場で,環境やペットなどに配慮しながら患者の適応能力を引き出す体験的な学習を促す機会を反復したことが予測を超えた役割の再獲得に繋がったと考える.本症例を通して,患者の適応能力の可能性を感じ,入院中という限られた環境の中で退院後の予測を行い,安易に活動の範囲を決めてはならないということを学ぶことができた.
【症例紹介】70歳代女性.夫,室内犬2匹との生活.病前のADLは自立.既往にアルツハイマー型認知症の診断あり.延髄梗塞を発症し,当院の急性期・回復期リハビリテーション病棟を経て,第135病日に自宅退院した.その後,訪問リハビリテーションを行い,第204病日に訪問リハビリテーションを終了した.
【経過】入院時:急性期にて作業療法開始時はHDS-R:9/30,体幹・右下肢に運動性失調を認め,基本動作・肘起き歩行器歩行中等度介助レベルであった.回復期にて作業療法開始時のADLはFIM合計56点.入院中に車椅子で4回の離棟があり,監視が外せない状態であった.
退院時:介護度は要介護4と認定された.ADLは退院時FIM合計90点で,手すりを使用しての伝い歩きは監視レベル,独歩は一部~中等度介助レベルであった.歩行時のふらつきへの配慮が困難なことで転倒リスクが高く,退院まで離床センサーにて対応し終日車椅子監視となっていた.運動機能面では著明な運動麻痺・感覚障害はないものの,体幹・右下肢の運動性失調は残存していた.FBSは38/56点.高次脳機能面では,HDS-R:19/30,FAB:11/18,TMT—J:Aは異常,Bは時間切れで中止した.注意機能低下により歩行中も周囲へ注意が逸れることが多く,ふらつきによる転倒の危険性が高かった. 夫は症例の転倒リスクが高いことは理解していたが,常に見守ることは困難であるとの発言があった.転倒を予防するため,自宅内を伝い歩きで移動できる環境に調整し,玄関の外へは一人で出られないようにゲージを設置し退院した.
退院後:デイサービスを週3回利用し,生活状況の確認・指導のため,OT・PTが週1回ずつ訪問リハビリテーションを行うことになった.自宅環境は,リビングや廊下には犬の布団やペットシーツが敷いてあり,犬の尿汚染部分を踏まないように注意し歩行する必要があり,移動時の障害物が多い状態であった.
【結果】バランス能力はFBSに変化はなかった.ふらつきに対しても,自己にて配慮が可能となった.夫は,活動意欲の高い症例をあまり抑制しなかったこともあり,退院直後に3回の転倒があったものの,訪問リハビリテーション終了時は伝い歩きが自立し,転倒もなくなった.また,洗濯や掃除などの役割活動も自立した.自宅内は犬が2匹とも放し飼いされているため,手すりや支持物を使用して,犬やペットシーツを避けながら移動し,また犬の世話もできていた.
【考察】入院生活では,医療者側の心理として転倒を未然に防ぎたいあまり,患者に対して容易に活動制限を設けてしまう傾向にある.本症例においては自宅という慣れた生活の場で,環境やペットなどに配慮しながら患者の適応能力を引き出す体験的な学習を促す機会を反復したことが予測を超えた役割の再獲得に繋がったと考える.本症例を通して,患者の適応能力の可能性を感じ,入院中という限られた環境の中で退院後の予測を行い,安易に活動の範囲を決めてはならないということを学ぶことができた.