第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-10] ポスター:脳血管疾患等 10

Sat. Nov 11, 2023 2:10 PM - 3:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-10-8] 脳卒中片麻痺患者における自動車運転評価結果が運転再開状況に与える影響

伊藤 崇, 高見 美貴 (地方独立行政法人 秋田県立病院機構 秋田県立リハビリテーション・精神医療センター)

【はじめに】
近年,脳卒中後に医療機関で行う運転支援の流れの提示や,運転評価に関する神経心理学的検査の参考値などが多数報告されている.しかし,入院中の運転評価結果から合否判定された者について,退院後の再開状況まで追跡調査した報告は少ない.当院においても運転再開状況に入院中の運転評価結果が反映されているか不明であった.そこで今回,入院中に自動車運転支援を実施した脳卒中片麻痺患者を対象に退院後アンケート調査を行い,運転再開状況に入院中の運転合否判定と社会・個人因子がどのように影響を与えているかを検討した.なお,本研究は当院倫理委員会より承認を得て実施した.
【対象】
対象は2015年4月から2022年3月,入院中に運転評価を実施した脳卒中片麻痺患者334名で,平均年齢61±11歳,男274名,女60名,診断名は脳出血162名,脳梗塞172名であった.運転評価の実施条件として,運転再開の意思がある,屋外の移動自立,ADL自立が見込まれる者とした.
【方法】
入院中の運転評価は身体機能,認知機能,ADL評価に加え,ドライビングシミュレータによる視覚検査,アクセル・ブレーキの踏み替え検査,模擬運転検査などによって総合的に評価し,合格,不合格を判定した.また,対象者334名に対し退院後6か月以上18ヶ月未満に運転再開状況についてのアンケート調査を郵送で実施した.
分析は,運転再開状況(再開1,非再開0)を従属変数とし,独立変数を運転評価合否判定(合格1,不合格0),年齢,性別,同居家族の有無(有1,無0),就労希望の有無(有1,無0)としたロジスティック回帰分析を行った.
【結果】
アンケートは261名から回答が得られ,回収率は78.1%であった.したがって,以後の分析は回答が得られた261名で行った.運転再開者,非再開者の順に,運転評価(合格:不合格)は175:13名,25:48名,平均年齢は61±11歳,65±11歳,性別(男:女)は158:30名,58:15名,同居家族(有:無)は176:12名,68:5名,就労希望(有:無)は112:76名,18:55名であった.ロジスティック回帰分析の結果,運転再開状況に影響を与える因子として運転評価合否判定と就労希望の有無が抽出され,オッズ比は運転評価合否判定が30.08(95%信頼区間12.73-71.05),就労希望の有無が4.89(95%信頼区間2.13-11.23)でいずれもP<0.05で有意であった.その他の独立変数の年齢,性別,同居家族の有無は有意ではなかった.なお,モデルχ²検定はP<0.05,Hosmer-Lemeshow検定はP=0.87,判別的中率は85.4%で回帰モデルの適合性は良好であった.
【考察】
今回の結果から,入院中に実施している運転評価の合否判定が運転再開状況に大きく影響し,次いで就労希望の有無が影響を与えていることが確認できた.入院中の運転支援において,運転評価後に医師の診断書を添えて公安委員会での臨時適性相談・検査へ進むことを徹底して指導していることから,運転評価合否判定が運転再開状況に対して大きな影響を与えたと考える.つまり,入院中の運転評価合否判定の責任は重大で,その重要性が明らかになった.また,就労希望により運転再開の必要性が高くなり運転再開状況に影響したと思われた.当県は自動車の代替として公共交通機関の選択肢が乏しいという事情も関与していると考えた.