[PA-11-1] 急性期脳卒中患者における神経心理学的検査を用いた検討
【背景・目的】
脳血管障害発症後,高い頻度で高次脳機能障害を生ずる.なかでも,注意障害は,他の高次脳機能障害やActivities of Daily Living(以下ADL)との深い関連性を指摘されているが,急性期領域にて定量的評価や継時的検討がなされた報告は少ない.そこで,本研究では,急性期脳卒中患者を対象とし,神経心理学的検査を用いて,注意機能の改善推移及びADLとの関連について明らかにすることを目的とした.
【対象】
2020年9月~2023年1月,当院にて加療した急性期脳卒中患者32例(男性22例,女性10例,平均年齢61.7±7.7歳).診断名は,脳梗塞27例,脳出血5例.取込基準は,机上検査が実施可能で,口頭・書面にて研究同意が得られた者とした.除外基準は,意識障害,重度運動麻痺,失語症,運動失調,難聴,発達障害,精神障害を呈する者とした.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.
【方法】
発症2週間以内(初期評価),退院1週間以内(最終評価)とし,神経心理学的検査・ADL評価を実施.神経心理学的検査は,長谷川式簡易知能評価・Mini-mental State Examinationハイブリッド版:HDS-R・MMSE,Clinical Assessment for Attention:CAT(VCT「△」・「か」所要時間と正答率,Symbol Digit Modalities Test:SDMT),Moss Attention Rating Scale日本語版:MARS-J(MARS-J総合得点・注意散漫・開始・持続性)とし,ADLはFunctional Independence Measure:FIM(T-FIM・m-FIM・c-FIM)を評価指標とした.統計解析手法は,Spearmanの順位相関係数を算出し,Wilcoxon符号付順位和検定を実施.統計ソフトはSPSS Ver 28.0にて有意水準は5%未満とした.
【結果】
1.神経心理学的検査成績とADLの相関(初期評価・最終評価の詳細は相関行列参照):初期評価より,MARS-J総合得点とT-FIM・m-FIM・c-FIM(p=0.86・0.73・0.78)ではp>0.7であり,強い正の相関にあったが(P<0.05),T- FIM・m-FIM・c-FIM とMARS-J開始(p=0.02・-0.15・0.11)・持続性(p=0.17・0.07・0.13)では,いずれも相関係数に有意性を認めなかった(P>0.05).また,VCT「△」・「か」所要時間とT-FIM(p=-0.64・-0.56)では,p>-0.4であり,負の中程度の相関にあった(P<0.05).最終評価では,T-FIMとHDS-R(p=0.50),MMSE(p=0.59),VCT「△」正答率(p=0.59),MARS-J総合得点(p=0.57)では,p>0.4にて中程度の正の相関があり(P<0.05),VCT「△」所要時間(p=-0.40)とは,負の相関にあった(P<0.05).m-FIMとMMSE(p=0.45),SDMT達成率(p=0.43),MARS-J総合得点(p=0.42)・持続性(p=0.43)では,p>0.4にて中等度の正の相関があった(p<0.05).c-FIMとHDS-R(p=0.41),VCT「△」正答数(p=0.46)では,p>0.4であり,中程度の正の相関にあったが(P<0.05),SDMT達成率やMARS-J総合得点・注意散漫・開始・持続性では,相関係数に有意性を認めなかった(P>0.05).
2.初期評価と最終評価における群間分析:HDS-RやMMSE,VCT「△」・「か」,SDMT,MARS-J総合得点にて有意差を認めたが,MARS-J持続性では有意差を認めなかった(P=0.06).
【考察】
本研究では,神経心理学的検査とFIMに高い相関と有意な改善が認められた.なかでもCATやMARS-Jに関しては,ADLの自立度と関連がある可能性が示唆された.相関分析より,VCT・SDMTは,特に発症早期と関連があり,これは焦点性注意と持続性注意における重要性が示されたものではないかと考える.また,MARS-Jに関しては,包括的な注意機能評価として検出力に優れた評価であると提唱されており,本研究では,MARS-Jの有用性を示すとともに,さらなる追跡研究を必要とする結果となった.
脳血管障害発症後,高い頻度で高次脳機能障害を生ずる.なかでも,注意障害は,他の高次脳機能障害やActivities of Daily Living(以下ADL)との深い関連性を指摘されているが,急性期領域にて定量的評価や継時的検討がなされた報告は少ない.そこで,本研究では,急性期脳卒中患者を対象とし,神経心理学的検査を用いて,注意機能の改善推移及びADLとの関連について明らかにすることを目的とした.
【対象】
2020年9月~2023年1月,当院にて加療した急性期脳卒中患者32例(男性22例,女性10例,平均年齢61.7±7.7歳).診断名は,脳梗塞27例,脳出血5例.取込基準は,机上検査が実施可能で,口頭・書面にて研究同意が得られた者とした.除外基準は,意識障害,重度運動麻痺,失語症,運動失調,難聴,発達障害,精神障害を呈する者とした.なお,本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した.
【方法】
発症2週間以内(初期評価),退院1週間以内(最終評価)とし,神経心理学的検査・ADL評価を実施.神経心理学的検査は,長谷川式簡易知能評価・Mini-mental State Examinationハイブリッド版:HDS-R・MMSE,Clinical Assessment for Attention:CAT(VCT「△」・「か」所要時間と正答率,Symbol Digit Modalities Test:SDMT),Moss Attention Rating Scale日本語版:MARS-J(MARS-J総合得点・注意散漫・開始・持続性)とし,ADLはFunctional Independence Measure:FIM(T-FIM・m-FIM・c-FIM)を評価指標とした.統計解析手法は,Spearmanの順位相関係数を算出し,Wilcoxon符号付順位和検定を実施.統計ソフトはSPSS Ver 28.0にて有意水準は5%未満とした.
【結果】
1.神経心理学的検査成績とADLの相関(初期評価・最終評価の詳細は相関行列参照):初期評価より,MARS-J総合得点とT-FIM・m-FIM・c-FIM(p=0.86・0.73・0.78)ではp>0.7であり,強い正の相関にあったが(P<0.05),T- FIM・m-FIM・c-FIM とMARS-J開始(p=0.02・-0.15・0.11)・持続性(p=0.17・0.07・0.13)では,いずれも相関係数に有意性を認めなかった(P>0.05).また,VCT「△」・「か」所要時間とT-FIM(p=-0.64・-0.56)では,p>-0.4であり,負の中程度の相関にあった(P<0.05).最終評価では,T-FIMとHDS-R(p=0.50),MMSE(p=0.59),VCT「△」正答率(p=0.59),MARS-J総合得点(p=0.57)では,p>0.4にて中程度の正の相関があり(P<0.05),VCT「△」所要時間(p=-0.40)とは,負の相関にあった(P<0.05).m-FIMとMMSE(p=0.45),SDMT達成率(p=0.43),MARS-J総合得点(p=0.42)・持続性(p=0.43)では,p>0.4にて中等度の正の相関があった(p<0.05).c-FIMとHDS-R(p=0.41),VCT「△」正答数(p=0.46)では,p>0.4であり,中程度の正の相関にあったが(P<0.05),SDMT達成率やMARS-J総合得点・注意散漫・開始・持続性では,相関係数に有意性を認めなかった(P>0.05).
2.初期評価と最終評価における群間分析:HDS-RやMMSE,VCT「△」・「か」,SDMT,MARS-J総合得点にて有意差を認めたが,MARS-J持続性では有意差を認めなかった(P=0.06).
【考察】
本研究では,神経心理学的検査とFIMに高い相関と有意な改善が認められた.なかでもCATやMARS-Jに関しては,ADLの自立度と関連がある可能性が示唆された.相関分析より,VCT・SDMTは,特に発症早期と関連があり,これは焦点性注意と持続性注意における重要性が示されたものではないかと考える.また,MARS-Jに関しては,包括的な注意機能評価として検出力に優れた評価であると提唱されており,本研究では,MARS-Jの有用性を示すとともに,さらなる追跡研究を必要とする結果となった.