第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-13] 半側空間無視と体性感覚障害を呈した症例に対し,食事動作獲得を目的に身体所有感の階層性を考慮した作業に焦点を当てた介入報告

宗田 紗耶1, 佐藤 祥太1, 唐渡 弘起1, 丹羽 陽児2 (1.社会医療法人ささき会藍の都脳神経外科病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人ささき会藍の都脳神経外科病院リハビリテーション科)

【はじめに】半側空間無視(USN)の一般的な介入方法には,言語的指示や視覚的な手がかりにより無視空間の能動的な探索を促すアプローチなどが検討されているが,身体無視の影響を考慮した介入報告は少ない.身体所有感は視覚・体性感覚の時空間的な一致により成立するが,脳卒中後に身体無視・感覚障害を呈した症例は,左手の到達や把持のエラーを繰り返し,食事場面では最終的に不使用に至っていた.エラーを自覚できず,左手の他者帰属化を訴えた症例に対して,身体無視の影響を低減させる環境下で,身体所有感の改善に着目し,身体所有感の階層性に沿った段階的な運動課題の設定を行った結果,食事動作の獲得と,左手への内省の変化を得られたので報告する.報告に関しては当法人の倫理委員会の承認を得た(倫-リ-123) .
【症例紹介】右心原性脳塞栓を発症した80代女性,右利き.第14病日より介入開始.画像所見では島皮質・側頭頭頂接合部・下頭頂小葉・中心後回に梗塞巣が散見された.左上下肢BRSⅤ,感覚障害は中等度鈍麻.USNについて,CBSは8点(身体空間優位)であり,Fluff testでは13/24点と左上肢・体幹に身体無視を認め,左手も「右手」と呼称した.食事動作ではお椀ではなくトレーを誤って押さえ続け,第20病日で不使用に至った.左手への内省は「この手は遊んでいるのよ」「この手はお姉ちゃんの手?」等,擬人化や他者帰属化に該当する記述を認めた.TMT-Aは実施困難で,観察上著明な転換性・容量分配性の注意障害を認めた.
【病態解釈】体性感覚障害に身体無視が重なることで,体性感覚と視覚の一致が困難となり,身体所有感の低下に繋がった可能性があった.運動麻痺は軽度であったが,左手における空間的な位置関係の判断や到達・把持動作の自己修正が困難となり,特に左手一側で食器の形状に合わせた操作が必要な食事動作は難易度が高く,学習性不使用に至ったと考えられた.Synofzikら(2008)による身体所有感の階層性に沿って,身体無視の影響を考慮した環境下で感覚運動表象レベルの感覚統合課題より開始し,次にご飯を食べたいという生理的欲求や,腕相撲をしたいという症例の意図に基づく作業の実践を行い,命題的表象による身体所有感の改善を段階的に図ることとした.
【経過】両手動作時や左上肢への電気刺激・振動刺激の入力後は左手の感覚入力や運動に注意を向けることが可能であったため,ボールの圧排やブロックの能動的操作から開始し,第25病日まで感覚運動表象レベルでの感覚統合,身体図式の改善を図った.命題的表象レベルの作業としてお椀の操作練習や腕相撲も開始.腕相撲では症例の予測に反し左手のみ担当療法士に負ける結果となり,実施直後である第30病日頃より「私,なぜかこっちの手が動かしにくいみたい」という内省変化とともに,左手の他者帰属化を訴えなくなった.CBSは7点,Fluff testは18点と身体無視所見は軽度改善.食事動作では第35病日より左手でお椀を持ち上げ,視線を向けつつスプーンに合わせた傾きの調整も認めるようになった.
【考察】身体所有感の階層性のうち,感覚運動表象と命題的表象の上位システムであるメタ表象は,森岡(2019)によると自己の身体と他者の比較に関連するとされる.左手の他者帰属化を示した症例に対し,USNのサブタイプの特性を考慮した病態解釈と身体所有感の階層性に基づいた段階的な介入を行った結果,腕相撲という作業では「こんな子に私が負けるなんてこの手おかしいね」等,メタ表象レベルの修飾も働いたと考えられ,身体所有感の改善が,食器の形状や右手の動作に協調する左手の食事動作獲得の一助となった可能性が示唆された.