第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-14] 半側空間無視と同名半盲を呈した症例に対するバーチャルリアリティ用いた気づきへの介入

今田 泰裕1,2, 山本 安里子2,3, 北垣 敏樹3, 三浦 靖史2 (1.神戸掖済会病院リハビリテーション科, 2.神戸大学大学院保健学研究科, 3.適寿リハビリテーション病院)

【緒言】半側空間無視はADL・IADLの阻害因子となるが,回復には障害への気づきが重要と言われている(Tobler et al. 2020).一方,バーチャルリアリティ(VR)は仮想の世界を現実のように体験させる技術であり,機器を用いることにより限られた空間であっても様々な体験が可能となる.今回,左半側空間無視を中心に様々な高次脳機能障害,同名半盲を呈した症例に対して,VRを用いたIADL評価と実施状況の録画を用いたフィードバックを行い,無視症状,病識の改善を認めたため報告する.なお,報告に際して文書にて症例の同意を得ている.
【症例】80歳代女性,右利き,独居,IADL自立.気分不快を主訴に救急要請,脳皮質下出血(右頭頂後頭葉)の診断で保存的加療目的の入院となった.神経学的所見では左同名半盲を認めたが,運動・感覚に問題は認めなかった.神経心理学的所見ではMMSE22/30,TMT-JのpartA480秒,BIT通常検査123/146,Ota testから注意障害,左半側空間無視(対象中心>自己中心),構成障害等を認めた.ベッド周囲のADLは自立,移動を伴う動作は左折が困難であり,声かけが必要であった.検査や観察場面を通じて無視症状に対するフィードバックを行なったもののCatherine Bergego Scale(CBS)では0/30(自己評価)・10/30(観察評価)と乖離があり,病識の低下を認めた.
【方法】ハードウェアはOculus Quest(Meta社),ソフトウェアはiADVISOR(ワイドソフトデザイン社)を使用した.iADVISORは仮想空間にてIADL評価・練習が行えるもので,今回は第18-19病日に買い物,外出,調理課題を行い,録画を用いたフィードバックを行なった.
【結果】買い物では左側の商品を見落とす,メモの「たまねぎ」を「ねぎ」と読み間違えるなどのエラーが観察された.実施後に状況を聞くと「メモは見れた,商品は大体見つけられた.全体を見られた.」とのことであった.外出ではほぼ右側を注視して道路を横断する様子が観察された.実施後,「(左は)見えていた.現場ではできる気がする.信号は止まるし.」と言い,信号のない場所は「渡らない.」とのことであった.調理では徐々に視線が右へ移動し,強い促しがなければ左側にある物品の探索が困難であり,中止となった.実施後,「実際は大丈夫だと思います.」とのことであった.録画を用いたフィードバックを行うと「(左側のものは)見つけづらかったです.」「右から確認をするから右ばかりを見ていた.」「現場ではできる,知っている場所では大丈夫.」など見落としに気がつくものの,否定や取り繕いが見られた.しかし介入後にCBSにて再評価を行うと4/30(自己),7/30(観察)と無視症状の改善と障害に対する気づきが得られた.なお,気分不快などの有害事象はなく,日頃の練習では行えないことができ,楽しかったという感想が得られた.
【考察】左半側空間無視に伴う視野障害,病識の低下は無視症状やADLに影響を及ぼすと言われており(Saj et al. 2012, Vossel et al. 2013),本例においてもその影響を認めていた.また,心理検査や観察場面を通じてフィードバックを行ったが,症状に対する気づきは乏しい状況であった.今回,フィードバックとしてVR課題場面の録画を使用し,不十分ではあるが障害に気づくことができるようになった.これは机上検査とは異なる実生活に関連した場面の体験やVR課題上での成績という客観的な指標が,本人にとって障害を認識しやすい方法であった可能性が考えられた.一方,別の方法として実生活場面の録画も考えられるが,実施には様々な準備,事故や怪我などの危険性が生じた場合には中断する必要があり,他者の影響が生じる可能性もある.そのため安全,容易に環境を調整して行えるVR課題はIADL評価方法の一つとして有用であると考えられた.