[PA-11-15] 左片麻痺に対する非所属感,擬人化,片麻痺憎悪を呈した症例に対する作業療法経験
【はじめに】身体パラフレニア(Somatoparaphrenia:以下SP)とは,麻痺肢の喪失感を基盤とし,他人帰属感,擬人化,片麻痺憎悪の分類が考えられている.脳卒中後の急性期において非常に珍しいという症状ではないが,発現メカニズムやリハビリテーション理論についての報告は少ない.今回,麻痺肢の非所属感から始まり,憎悪,擬人化へとSPに関する表現が変容した症例を経験した.SPの経過とリハビリテーション介入の詳細と若干の考察を加えて報告する.本報告はご本人に発表の承諾を得た.
【対象及び初期評価】50歳代男性,右利き.病前は庭師として働かれていた.軽トラック乗車中友人と電話した際,呂律が回っておらず救急要請.右被殻出血と診断され保存的に加療された.症状経過として,第5病日の神経学的所見は,意識レベルGCS(3-5-5).左上肢SIAS-M(0-0),感覚は表在・深部共に重度鈍麻であった.神経心理学的所見は脱抑制,全般性注意障害,左半側空間無視(以下,左USN),SP,病態失認を認めた.第15病日より,病棟では大声を出す,多弁,机を叩く等の脱抑制,退行的な発言も見られ服薬により鎮静がかけられている状態だった.第30病日に実施したBITの合計得点は131点のカットオフ値となり線分二等分で大きく減点を認めた.ADL場面は車椅子自走時左側へ衝突,視線が右側へ易転導性等を認めた.SPは約第7病日から,起居時に左肩の疼痛自覚,それ以来「第3の手が痛みを出している」「左の肩甲骨から羽が生えている」と訴えが出現し始めた.
【訓練経過】介入当初,まずは麻痺側管理の獲得,左上肢の認識向上のためADL訓練,左上肢訓練を中心に介入した.SPの「第3の手が痛みを出している」と非所属感,擬人化を訴えた多くの場面で,左上肢が身体の下敷きになっていたり,側臥位で左上肢を忘れている時であった.今後,左肩の疼痛増悪,アライメント不良等に繋がるリスクがあったため,麻痺側管理を獲得するよう反復して動作指導を行なった. 基本動作が定着してきた時期,重度麻痺,重度感覚障害は残存しているが第3の手について問うと「最近は生えてこない」とSP症状が改善していた.平行して行っていた上肢訓練は車椅子座位でワイピング等を実施.脱抑制・注意障害の影響により左上肢に注意が向きにくかったが,基本動作が定着した時期から,上肢訓練時,左上下肢が動かない事に対し「こいつは何で動かなんや」と左手足をきつく叩く場面が多々見られた.病前は庭師としての仕事に誇りを持ちながら働かれていたため,患肢に対する嫌悪感や健側で麻痺肢を叩く等の行動は,SPの分類にある麻痺憎悪を認めた.その都度声掛けを行い自身の大切な左上肢である事を指導した.経過と共に左上下肢を叩く場面は減少し「こいつは僕の手や.頑張ろう」と擬人化は残存しているが麻痺憎悪は改善した.更に左上下肢の認識は向上し,左上肢はアームレスト装着し管理定着,初期は左下肢のフットレスト忘れを認めたが,忘れは減少し,病棟トイレは終日自立へと安静度向上が可能となった.
【考察】本症例は左肩に生じた疼痛がSP出現の要因となったと考える.大東らは,右半球損傷を負った患者は,左半身を欠いた右半身の身体意識を自身の身体意識のすべてと意識する.その結果,右半身のみが自身の身体意識を構成する事となり左半身は自己の身体意識に帰属しなくなると論じている.本症例も,左上下肢の非所属感と重度感覚障害が左肩に出現した疼痛との間の矛盾解決のため「第3の手」としてSPが出現したのではないか考える.基本動作訓練等の中で左上肢の認識が向上し,自ら麻痺側に対し注意を払えた事が左上肢の所属感向上に繋がりSP症状は改善され,麻痺側管理獲得まで繋がったと考察した.
【対象及び初期評価】50歳代男性,右利き.病前は庭師として働かれていた.軽トラック乗車中友人と電話した際,呂律が回っておらず救急要請.右被殻出血と診断され保存的に加療された.症状経過として,第5病日の神経学的所見は,意識レベルGCS(3-5-5).左上肢SIAS-M(0-0),感覚は表在・深部共に重度鈍麻であった.神経心理学的所見は脱抑制,全般性注意障害,左半側空間無視(以下,左USN),SP,病態失認を認めた.第15病日より,病棟では大声を出す,多弁,机を叩く等の脱抑制,退行的な発言も見られ服薬により鎮静がかけられている状態だった.第30病日に実施したBITの合計得点は131点のカットオフ値となり線分二等分で大きく減点を認めた.ADL場面は車椅子自走時左側へ衝突,視線が右側へ易転導性等を認めた.SPは約第7病日から,起居時に左肩の疼痛自覚,それ以来「第3の手が痛みを出している」「左の肩甲骨から羽が生えている」と訴えが出現し始めた.
【訓練経過】介入当初,まずは麻痺側管理の獲得,左上肢の認識向上のためADL訓練,左上肢訓練を中心に介入した.SPの「第3の手が痛みを出している」と非所属感,擬人化を訴えた多くの場面で,左上肢が身体の下敷きになっていたり,側臥位で左上肢を忘れている時であった.今後,左肩の疼痛増悪,アライメント不良等に繋がるリスクがあったため,麻痺側管理を獲得するよう反復して動作指導を行なった. 基本動作が定着してきた時期,重度麻痺,重度感覚障害は残存しているが第3の手について問うと「最近は生えてこない」とSP症状が改善していた.平行して行っていた上肢訓練は車椅子座位でワイピング等を実施.脱抑制・注意障害の影響により左上肢に注意が向きにくかったが,基本動作が定着した時期から,上肢訓練時,左上下肢が動かない事に対し「こいつは何で動かなんや」と左手足をきつく叩く場面が多々見られた.病前は庭師としての仕事に誇りを持ちながら働かれていたため,患肢に対する嫌悪感や健側で麻痺肢を叩く等の行動は,SPの分類にある麻痺憎悪を認めた.その都度声掛けを行い自身の大切な左上肢である事を指導した.経過と共に左上下肢を叩く場面は減少し「こいつは僕の手や.頑張ろう」と擬人化は残存しているが麻痺憎悪は改善した.更に左上下肢の認識は向上し,左上肢はアームレスト装着し管理定着,初期は左下肢のフットレスト忘れを認めたが,忘れは減少し,病棟トイレは終日自立へと安静度向上が可能となった.
【考察】本症例は左肩に生じた疼痛がSP出現の要因となったと考える.大東らは,右半球損傷を負った患者は,左半身を欠いた右半身の身体意識を自身の身体意識のすべてと意識する.その結果,右半身のみが自身の身体意識を構成する事となり左半身は自己の身体意識に帰属しなくなると論じている.本症例も,左上下肢の非所属感と重度感覚障害が左肩に出現した疼痛との間の矛盾解決のため「第3の手」としてSPが出現したのではないか考える.基本動作訓練等の中で左上肢の認識が向上し,自ら麻痺側に対し注意を払えた事が左上肢の所属感向上に繋がりSP症状は改善され,麻痺側管理獲得まで繋がったと考察した.