第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

Sat. Nov 11, 2023 3:10 PM - 4:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-16] 日本語版Action Research Arm Testにおける評価者教育標準化に対する試み

山岡 洸1, 天野 暁1,2, 丸山 祥1,3, 廣瀬 卓哉1, 石川 弘明1 (1.湘南慶育病院リハビリテーション部, 2.北里大学医療衛生学部, 3.東京都立大学健康福祉学部)

【背景】Action Research Arm Test (以下:ARAT)は, 脳卒中上肢麻痺の評価においてゴールドスタンダードとなっており, 近年の厳密な大規模研究の主要な成果指標として用いられている. 本国においても日本語版の作成と良好な評価特性結果の報告があり, 評価者教育訓練のためのプログラム構成要素などが開示されているが, その効用や汎用性についての課題は残っている状態である. そのため, 回復期病棟を持つリハビリテーション施設における作業療法士集団を対象に, ARAT評価の再現性における得点のばらつきを確認し, そのばらつきを減少させ, 結果の再現性を改善する試みを行ったため報告する.
【対象と方法】本研究に同意の得られた33名の作業療法士を対象に, 第一に, 事前に撮影された3名の脳卒中患者に対するARAT評価動画の採点をお互いの判断結果が分からない状態で実施した. 患者は年齢63±7.0歳, 上肢麻痺の程度は, Woodbury et al(Arch Phys Med Rehabil 2013)を参考に軽度(症例A)・中等度(症例B)・重度(症例C)となるように選出した. その後, 過去の上肢運動機能評価の教育訓練を参考にした, 以下の構成要素を持つ教育プログラムを提供した:①教育講義, ②集団/個別トレーニング, ③質疑応答. また, 最後に, 教育プログラムを実施する前に採点した動画を再度採点してもらい, その前後の変化を比較検討した. 統計解析においては, データ全体のばらつきを記述統計や箱ひげ図等で示し, 項目ごとの再現性の確認のために, 事前にARAT評価に精通した複数名の作業療法士の統合判断をアンカーとして, 重み付けされたカッパ係数が算出された. 解析ソフトウェアは, R (version 4.2.2)とした. また, 本研究は湘南慶育病院倫理審査委員会で承認を得た.(承21-021)
【結果】合計得点に関して, アンカーからの差の情報(中央値 [四分位範囲])を以下に示す. 症例A:訓練前-5.0 [-9.0〜-2.0], 訓練後0.0 [-1.0〜1.0]. 症例B:訓練前0.0[-3.0~3.0], 訓練後 1.0 [-1.0~4.0]. 症例C:訓練前 4.0 [1.0~5.0], 訓練後 1.0 [-2.0~4.0]. また, 重み付けされたカッパ係数の情報を以下に示す. 係数値0.7以上の割合:訓練前 31.6%, 訓練後 57.9%. 係数値0.6以上の割合:訓練前 42.1%, 訓練後 78.9%. 係数値0.5以上の割合:訓練前 57.9%, 訓練後 89.5%.
【考察】本研究で行われた日本語版ARATに対する評価者教育は, カッパ係数の訓練前後の変化に表れているように, 一定の望まれた変化をもたらしたと考える. ただし, 日本語版ARATの開発論文で示されている測定誤差(Amano et al., Topics in stroke rehab. 2019)などを鑑みると, 評価された症例の重症度や評価する個人によって, 先行研究よりも誤差が広がったままであったケースも確認された. 今後は, より再現性を高めるための工夫を行い, より多様性を持つ症例に対して本取り組みの影響を検討する必要がある.