第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-11] ポスター:脳血管疾患等 11

2023年11月11日(土) 15:10 〜 16:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-11-17] 亜急性期脳卒中患者における片麻痺に対する病態失認の脳損傷領域と典型症例の臨床症状

中田 佳佑1, 大野 泰輔2, 藤井 慎太郎2, 生野 公貴2 (1.社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院リハビリテーションセンター 回復期リハ科, 2.医療法人友紘会 西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】脳損傷後の片麻痺に対する病態失認(Anosognosia for Hemiplegia:AHP)は自身の片麻痺の気づきの障害とされ,急性期では片麻痺の気づきを評価するためにAnosognosia for Hemiplegia Questionnaireが用いられることが多い.しかし,亜急性期では片麻痺には気づくようになっても運動能力を過信することが多くなるため,Visual-Analogue Test for Anosognosia for motor impairment(VATAm)を用いることが有用である.AHPの病態は不明点が多く臨床症状を詳細に報告した例は少ない.本報告では亜急性期の右半球損傷患者に対してVATAmを用いてAHPを評価し,症状発現に関与する脳損傷領域を分析するとともに,典型的な単一症例の詳細な臨床症状を報告する.
【対象と方法】対象は回復期病棟に入院し,診療録の後方視的調査からVATAmを収集できた初発の右半球損傷者39名(平均69.5±15.2歳)であり,VATAmは発症後平均71.8±54.2日に評価した.VATAmの各項目に対する患者の主観的評価と療法士の客観的評価の合計から差分スコアを算出し,6.2点以上をAHP+群,以下をAHP-群に分類した.脳損傷領域の分析は各症例のCT/MRIで認めた病変を標準脳座標に変換したのちに,両群の合算マップを作成し病巣減算分析を行った.本研究は研究実施施設倫理委員会より承認を得て実施し,症例には発表の同意を得た.
【結果】VATAmによって検出されたAHP+群は11名であり(差分スコア平均12.5±4.4点),AHP-群は28名であった(差分スコア平均1.9±2.2点)であった.AHPと脳損傷領域との関連では,AHP+群はAHP-群と比べてローランド溝弁蓋部や島皮質,中心前回,被殻,外包の損傷を認めた.典型症例は右中大脳動脈領域に出血性梗塞を発症した回復期の80代男性であり,右前頭葉皮質から皮質下領域に及ぶ病変を認めた.入院時の運動機能はFugl-Meyer Assessment(FMA)にて上肢14点/下肢25点,認知機能はMMSE24点,BIT通常検査65点と半側空間無視を認め,FIM合計得点は22点と重介助であった.片麻痺には認識を示していたが,VATAmは主観15点/客観31点(差分スコア16点)であり,皿洗いや歩行,階段昇降などは実際には困難であったにも関わらず「普通にできる」との発言を認めた.ADL場面では寝返り動作時の麻痺手の忘れや車椅子アームレスト外に腕が落ちていても気づくことがなく,左側に転倒しそうになっても麻痺を自覚していないかのようにふるまった.入院3ヵ月後にはFMA上肢30点/下肢27点,BIT通常検査122点,歩行は軽介助レベルに改善するとVATAmでは主観13点/客観31点(差分スコア18点)と主観的評価にて運動能力をより過信するようになった.ADL場面では動作に支障となる左上肢の忘れや左下肢の躓き,引っかかりがあるにも関わらず突発的に動き出すなど安全面への配慮が困難であり,FIM合計得点は45点とADL自立度の向上は乏しかった.
【考察】AHPは腹側運動前野や島皮質,線条体,扁桃体,海馬および隣接する白質線維の損傷を示した先行研究が多く,本報告でも類似領域が同定された.症例の運動能力の認識障害は半側空間無視の影響を考慮する必要があるが,これらの脳領域は自己運動に対するモニタリングや気づきに重要な神経基盤であることから,病変によって正確な運動能力の気づきが障害された可能性が考えられる.AHPは一定の運動機能を有していたとしても安全に配慮した動作を阻害し,ADLの自立に負の影響を与える可能性が考えられるため,今後は運動障害に対するモニタリングや気づきを行動学的かつ定量的に捉えるための評価指標を作成し,混在する随伴症状と棲み分けてADL障害への影響を調査することが必要である.