[PA-11-4] 重度運動麻痺と下位運動ニューロン障害を呈する回復期脳卒中症例に対する神経筋電気刺激の効果:症例報告
【はじめに】脳卒中後の上肢運動麻痺の病態は主に皮質脊髄路損傷であるが,下位運動ニューロンにも障害が生じると報告されている.それらを予防および改善するために,神経筋電気刺激(NMES)が用いられるが,回復期における下位運動ニューロン障害の回復過程を調査した報告は少ない.今回,重度運動麻痺と下位運動ニューロン障害を認めた症例に対するNMESの詳細な反応と経時的変化について報告する.
【症例紹介】対象は左被殻出血により重度の右片麻痺と失語症を呈した70歳台の女性で,発症64病日に当院の回復期病棟へ入院となる.発症時は意識障害が重篤で,急性期病院での離床機会は少なかった.入院初期の上肢機能はFugl-Meyer Assessment上肢(FMA)2点で随意運動は認めず,上腕三頭筋のみ腱反射を認め,上腕二頭筋は消失していた.Modifid Ashworth Scaleは上肢全てが0で,四肢は著明な筋萎縮を認めた.上腕二頭筋のクロナキシー(運動神経興奮閾値となる基電流の強度の2倍の電流が筋収縮を生じさせるのに必要な最小パルス幅の値)は正常範囲が0.1-0.3msに対し,非麻痺側1.43ms,麻痺側1.87msと増加しており下位運動ニューロン障害を認めた.そこで運動麻痺と下位運動ニューロン障害の改善を目的に77病日よりNMESを実施した.周波数とパルス幅は疼痛に合わせて設定し,電流強度は筋収縮が確認でき,耐えうる最大強度とした.刺激時間は30分,1週間に5-7回実施した.なお,本報告に対し本人および家族に同意を得た.
【経過】亜脱臼と筋萎縮の改善を目的に棘上筋,三角筋後部,総指伸筋にNMES(パルス幅200μs)を実施したが,強度を上げても近位筋の筋収縮を誘発することは困難であった.84病日(介入1週間)後,共同運動での上腕二頭筋の筋収縮を認め,クロナキシー値は1.68msと改善した.FMAは2点で依然上腕二頭筋に腱反射を認めなかった.さらなる改善を目的に上腕二頭筋へのNMESを併用した自動介助での肘関節屈曲運動を取り入れた.運動閾値の低下に合わせてパルス幅を400µsに変更し,強い筋収縮を誘発した.100病日(介入3週間)後,クロナキシーは0.5msに改善した.FMAは4点で上腕二頭筋に腱反射を認めるようになり,随意運動では上腕二頭筋に明確な筋収縮を認めたが,十分な関節運動は生じなかった.101病日後,COVID-19に感染したことで隔離状態となり,NMESを中止せざるを得なくなった.113病日(隔離期間11日)後の評価ではFMAは4点で腱反射と上腕二頭筋の筋収縮に変化はないが,クロナキシーは1.12msと上昇し,再び下位運動ニューロン障害の増悪を認めた.隔離解除後より再びNMESによる介入を開始すると,121病日(介入5週間)後にクロナキシーは0.19msと正常範囲まで改善した.
【考察】本症例は入院時より麻痺側,非麻痺側ともにクロナキシーの増悪を認め,急性期病院での臥床期間の長期化が影響していると考えられた.下位運動ニューロン障害の状態に合わせたNMESを実施することで,運動機能の向上は乏しかったが,クロナキシーの減少,腱反射の出現を認めたことから,重度運動麻痺があってもNMESにより下位運動ニューロン障害の改善が得られる可能性が示唆された.しかし,再び介入を中止したことでクロナキシーの増悪を認めたことから,重度運動麻痺患者における下位運動ニューロン障害は不動等により容易に増悪する可能性が考えられた.以上から,重度運動麻痺症例に対する高頻度かつ継続した麻痺肢へのNMESの実施は,二次的な下位運動ニューロン障害を予防および回復させる可能性がある.また,入院時より下位運動ニューロン障害の程度を把握し,介入することは重要である可能性が考えられた.
【症例紹介】対象は左被殻出血により重度の右片麻痺と失語症を呈した70歳台の女性で,発症64病日に当院の回復期病棟へ入院となる.発症時は意識障害が重篤で,急性期病院での離床機会は少なかった.入院初期の上肢機能はFugl-Meyer Assessment上肢(FMA)2点で随意運動は認めず,上腕三頭筋のみ腱反射を認め,上腕二頭筋は消失していた.Modifid Ashworth Scaleは上肢全てが0で,四肢は著明な筋萎縮を認めた.上腕二頭筋のクロナキシー(運動神経興奮閾値となる基電流の強度の2倍の電流が筋収縮を生じさせるのに必要な最小パルス幅の値)は正常範囲が0.1-0.3msに対し,非麻痺側1.43ms,麻痺側1.87msと増加しており下位運動ニューロン障害を認めた.そこで運動麻痺と下位運動ニューロン障害の改善を目的に77病日よりNMESを実施した.周波数とパルス幅は疼痛に合わせて設定し,電流強度は筋収縮が確認でき,耐えうる最大強度とした.刺激時間は30分,1週間に5-7回実施した.なお,本報告に対し本人および家族に同意を得た.
【経過】亜脱臼と筋萎縮の改善を目的に棘上筋,三角筋後部,総指伸筋にNMES(パルス幅200μs)を実施したが,強度を上げても近位筋の筋収縮を誘発することは困難であった.84病日(介入1週間)後,共同運動での上腕二頭筋の筋収縮を認め,クロナキシー値は1.68msと改善した.FMAは2点で依然上腕二頭筋に腱反射を認めなかった.さらなる改善を目的に上腕二頭筋へのNMESを併用した自動介助での肘関節屈曲運動を取り入れた.運動閾値の低下に合わせてパルス幅を400µsに変更し,強い筋収縮を誘発した.100病日(介入3週間)後,クロナキシーは0.5msに改善した.FMAは4点で上腕二頭筋に腱反射を認めるようになり,随意運動では上腕二頭筋に明確な筋収縮を認めたが,十分な関節運動は生じなかった.101病日後,COVID-19に感染したことで隔離状態となり,NMESを中止せざるを得なくなった.113病日(隔離期間11日)後の評価ではFMAは4点で腱反射と上腕二頭筋の筋収縮に変化はないが,クロナキシーは1.12msと上昇し,再び下位運動ニューロン障害の増悪を認めた.隔離解除後より再びNMESによる介入を開始すると,121病日(介入5週間)後にクロナキシーは0.19msと正常範囲まで改善した.
【考察】本症例は入院時より麻痺側,非麻痺側ともにクロナキシーの増悪を認め,急性期病院での臥床期間の長期化が影響していると考えられた.下位運動ニューロン障害の状態に合わせたNMESを実施することで,運動機能の向上は乏しかったが,クロナキシーの減少,腱反射の出現を認めたことから,重度運動麻痺があってもNMESにより下位運動ニューロン障害の改善が得られる可能性が示唆された.しかし,再び介入を中止したことでクロナキシーの増悪を認めたことから,重度運動麻痺患者における下位運動ニューロン障害は不動等により容易に増悪する可能性が考えられた.以上から,重度運動麻痺症例に対する高頻度かつ継続した麻痺肢へのNMESの実施は,二次的な下位運動ニューロン障害を予防および回復させる可能性がある.また,入院時より下位運動ニューロン障害の程度を把握し,介入することは重要である可能性が考えられた.