[PA-11-8] 脳膿瘍により右上下肢不全麻痺と運動イメージの喪失に対し動作難易度を考慮した症例
【はじめに】脳膿瘍は重度後遺症を生じ得る疾患と言われている.今回,膿瘍ドレナージ術後に右上下肢不全麻痺と感覚障害,運動イメージの喪失を呈した症例に対し,上肢手指練習,感覚練習に加えて, 自主練習指導および動作修正・言語化を実施した.その結果,日常生活上で麻痺側の活用や運動イメージの改善を認め,自宅退院に至ったので報告する. なお,本発表に関する説明と同意は書面で得た.
【症例紹介】症例は70歳代の男性.-1病日に右下肢痙攣が生じ,1病日に右不全麻痺が出現,近医受診し,CTにて左頭頂葉周囲に浮腫性変化を伴う腫瘤性病変を認めた.他院入院後,麻痺は増悪したが,COVID-19抗原検査陽性となり手術対応困難で,4病日に当院へ転院し,同日に膿瘍ドレナージ術を施行.7病日よりOTを開始した.
【初期評価】GCSはE4V5M6.感覚は触覚重度鈍麻で手指弁別不可.深部感覚は母指運動覚脱失レベル,母指探索テストはⅡ度であった.Fugl Meyer Assessment(以下.FMA)は41/66点(肩/肘/前腕25/36点,手関節6点,手指10点,協調性0点),指鼻指試験や膝踵試験は右陽性で,測定障害や振戦を認めていた.Motor Activity Log(以下.MAL)のAmount of Use(以下.AOU)は0.09点,Quality of Movement(以下.QOM)は0.18点であった.模倣はできたが,両手動作時「どのように動かして良いかわからない」と発言があった. 車椅子駆動時,左上下肢のタイミングが合わず,右側へ接触していた.認知機能評価は日本語版Montreal Cognitive Assessment28点, Paced Auditory Serial Addition Task(2秒条件)正答率78%であった.
【経過】失調症状への重錘負荷法では改善が認められず,視認下での物品操作や閉眼での物品識別練習から開始した.本人の両手体操を撮影し自主練用資料を提供した.自主練習後に動作確認し,言語化や適宜動作修正した.上肢や手指動作及び,感覚機能の改善に伴い,段階的に操作物品を小さくし,19病日より右手でのスプーン操作練習を開始した.自主練習も紐結びへ変更しながら進めた.25病日頃より自主練習確認場面 で「投げるフォームが分からなかったです.先にどちらの手を挙げるのか」と具体的な身体認識への発言がみられた.OTではポケット内で手指練習を開始.食事はスプーンで8割程度摂取できるようになったため,箸練習を開始した.把握や操作の改善に伴い,日常生活での箸練習を開始. OT場面では,ダイナミックな運動を取り入れ,適宜動作確認,言語化,修正を図った.
【結果】37病日目,感覚は触覚軽度鈍麻で手指弁別可,母指運動覚正常,母指探索テストはⅡ度でズレは軽減した.指鼻指試験や膝踵試験で測定障害のみ残存した.FMAは59/66点(肩/肘/前腕32/36点,手関節10点,手指13点,協調性4点), MALのAOUは3.6点,QOMは3.95点となった.食事は右手で箸を使用し,8割摂取可能となった.新規課題に対し,開始時のエラーはあるも「体の右側で投げていたから真ん中に投げるように握り方を変えました」と動作修正や言語化が可能となった.屋内移動は独歩となり, 41病日に自宅退院した.
【考察】神経心理学的検査では著明な認知機能の低下は無かったが,動作場面では注意配分の低下が疑われ,上肢麻痺や感覚障害,運動イメージの欠落のため,動作難易度を調整しながら介入した結果, 上肢機能や感覚障害は改善したと考える.Sakamotoらは,動作の観察とイメージを行うと,一方のみに比べて皮質脊髄の興奮性が促進すると報告している.今回,紙面を用いた視覚的なフィードバックや,動作練習後に適宜動作修正や言語化する事によって運動イメージの再構築に寄与し,MAL(AOL)3.51点への改善がみられ,意義のある最小変化量(MCID)である1.1点を上回る結果に繋がったと考える.
【症例紹介】症例は70歳代の男性.-1病日に右下肢痙攣が生じ,1病日に右不全麻痺が出現,近医受診し,CTにて左頭頂葉周囲に浮腫性変化を伴う腫瘤性病変を認めた.他院入院後,麻痺は増悪したが,COVID-19抗原検査陽性となり手術対応困難で,4病日に当院へ転院し,同日に膿瘍ドレナージ術を施行.7病日よりOTを開始した.
【初期評価】GCSはE4V5M6.感覚は触覚重度鈍麻で手指弁別不可.深部感覚は母指運動覚脱失レベル,母指探索テストはⅡ度であった.Fugl Meyer Assessment(以下.FMA)は41/66点(肩/肘/前腕25/36点,手関節6点,手指10点,協調性0点),指鼻指試験や膝踵試験は右陽性で,測定障害や振戦を認めていた.Motor Activity Log(以下.MAL)のAmount of Use(以下.AOU)は0.09点,Quality of Movement(以下.QOM)は0.18点であった.模倣はできたが,両手動作時「どのように動かして良いかわからない」と発言があった. 車椅子駆動時,左上下肢のタイミングが合わず,右側へ接触していた.認知機能評価は日本語版Montreal Cognitive Assessment28点, Paced Auditory Serial Addition Task(2秒条件)正答率78%であった.
【経過】失調症状への重錘負荷法では改善が認められず,視認下での物品操作や閉眼での物品識別練習から開始した.本人の両手体操を撮影し自主練用資料を提供した.自主練習後に動作確認し,言語化や適宜動作修正した.上肢や手指動作及び,感覚機能の改善に伴い,段階的に操作物品を小さくし,19病日より右手でのスプーン操作練習を開始した.自主練習も紐結びへ変更しながら進めた.25病日頃より自主練習確認場面 で「投げるフォームが分からなかったです.先にどちらの手を挙げるのか」と具体的な身体認識への発言がみられた.OTではポケット内で手指練習を開始.食事はスプーンで8割程度摂取できるようになったため,箸練習を開始した.把握や操作の改善に伴い,日常生活での箸練習を開始. OT場面では,ダイナミックな運動を取り入れ,適宜動作確認,言語化,修正を図った.
【結果】37病日目,感覚は触覚軽度鈍麻で手指弁別可,母指運動覚正常,母指探索テストはⅡ度でズレは軽減した.指鼻指試験や膝踵試験で測定障害のみ残存した.FMAは59/66点(肩/肘/前腕32/36点,手関節10点,手指13点,協調性4点), MALのAOUは3.6点,QOMは3.95点となった.食事は右手で箸を使用し,8割摂取可能となった.新規課題に対し,開始時のエラーはあるも「体の右側で投げていたから真ん中に投げるように握り方を変えました」と動作修正や言語化が可能となった.屋内移動は独歩となり, 41病日に自宅退院した.
【考察】神経心理学的検査では著明な認知機能の低下は無かったが,動作場面では注意配分の低下が疑われ,上肢麻痺や感覚障害,運動イメージの欠落のため,動作難易度を調整しながら介入した結果, 上肢機能や感覚障害は改善したと考える.Sakamotoらは,動作の観察とイメージを行うと,一方のみに比べて皮質脊髄の興奮性が促進すると報告している.今回,紙面を用いた視覚的なフィードバックや,動作練習後に適宜動作修正や言語化する事によって運動イメージの再構築に寄与し,MAL(AOL)3.51点への改善がみられ,意義のある最小変化量(MCID)である1.1点を上回る結果に繋がったと考える.