[PA-12-10] 外国籍の回復期脳卒中患者に対する5W1Hを用いた具体的な目標設定に基づく上肢機能アプローチの経験
【はじめに】目標設定は,多くの報告によりその効果が期待されているが,臨床場面では面接のツールの利用した設定より,会話の中で行われる割合が多いことが報告されている(大野ら,2014).
【報告の目的】今回,対象者との会話の中で5W1H(Why,Who,What,When,Where,How)に基づき目標を具体化し介入した結果,麻痺手の機能改善とADL場面での使用頻度増加に至った経過について報告する.尚,発表に際し対象者から同意を得た.
【事例紹介】20歳代,右利きの男性.国籍はベトナム.診断名は左LSA領域脳梗塞.頭部MRIにて左内包後脚から放線冠にかけて梗塞巣を認めた.保存的加療を行い,発症より17病日後に当院回復期病棟に転院.生活歴は,システムエンジニアとして2年前に来日し,国内企業に勤務.独身・独居で,ADLは自立していた.
【転院時(17病日)作業療法評価】意識はクリア.会話は英語にて可能であった.BRSは上肢Ⅲ手指Ⅱ下肢Ⅲで,Fugl-Meyer Assessment 上肢運動項目(以下,FMA-UE)は14点であった.感覚機能は表在・深部ともに軽度鈍麻であった.MMSEは30点で,明らかな高次脳機能障害はなかった.Motor Activity Log(以下,MAL)はAmount of Use(以下,AOU)とQuality of Movement(以下,QOM)がともに0.85点であり,ADLでは麻痺手を使用できていなかった.FIMは73点(運動項目54点,認知項目19点)で,立位を経由する動作に介助を要した.主訴は「右手が動かない」であり,目標は「よくわからない」としか話さなかった.
【作業療法介入方針】介入方針を,「対象者が目標設定の意思決定に能動的に関与し,主体的にリハビリテーションを進められるようになること」とし,具体的には(i)5W1Hで目標の具体的なイメージをすり合わせる,(ii)目標となる作業に焦点を当てたアプローチと自主トレーニング(以下,自主トレ)を実施すること,とし適宜振り返りを行った.
【介入経過】17病日~:初回は面接にて,paper版ADOCを使用し,排泄の自立を目標とした.その後,目標を「トイレの見守りが恥ずかしいから,一人で,手すりを使って,下衣操作が出来ること」に修正し,下方へのリーチ訓練,麻痺手に対してIVESⓇ(オージー技研,東京)を用いた電気刺激療法を実施した.病棟では看護師見守りのもと,下衣操作訓練を実施した.
50病日~:目標を「袖通しをスマートに行いたいから,朝夕着替える時に,麻痺手で袖をつまんで,非麻痺手を通せること」とし,電気刺激療法や,つまみ動作訓練と更衣動作訓練を実施した.自室でもIVESⓇの子機を使用し,つまみ動作の自主トレを実施した.
85病日~:目標を「復職を目指したいから,麻痺手で,PCのタイピングができるようになる」ことを目的に,タイピング練習サイトを使用し,自室でも自主トレとして実施した.
【退院時(128病日)作業療法評価】BRSは上肢Ⅴ手指Ⅴ下肢Ⅴ,FMA-UEは60点,MALはAOU4.50点,QOM4.25点となった.院内のADL・IADLは自立し,屋外歩行も可能となった.FIMは124点(運動項目89点,認知項目35点)となり,ADLでは更衣の際の袖つまみや箸を使用した食事が可能となり麻痺手の使用頻度が増加した.国内の自宅に退院後,2か月後にベトナムに帰国した.
【考察】麻痺手使用の行動変容を促すためには自己効力感と報酬期待の相互作用が重要であるとされている(高橋,2017).今回,5W1Hで目標を具体化し,目標に焦点をあてた訓練と自主トレで積極的に麻痺手を使用したことが,機能改善と継続的な使用に繋がったと考えられる.また,「Why」により目標の理由付けをすることが能動性の担保に繋がったと考えられる.
【報告の目的】今回,対象者との会話の中で5W1H(Why,Who,What,When,Where,How)に基づき目標を具体化し介入した結果,麻痺手の機能改善とADL場面での使用頻度増加に至った経過について報告する.尚,発表に際し対象者から同意を得た.
【事例紹介】20歳代,右利きの男性.国籍はベトナム.診断名は左LSA領域脳梗塞.頭部MRIにて左内包後脚から放線冠にかけて梗塞巣を認めた.保存的加療を行い,発症より17病日後に当院回復期病棟に転院.生活歴は,システムエンジニアとして2年前に来日し,国内企業に勤務.独身・独居で,ADLは自立していた.
【転院時(17病日)作業療法評価】意識はクリア.会話は英語にて可能であった.BRSは上肢Ⅲ手指Ⅱ下肢Ⅲで,Fugl-Meyer Assessment 上肢運動項目(以下,FMA-UE)は14点であった.感覚機能は表在・深部ともに軽度鈍麻であった.MMSEは30点で,明らかな高次脳機能障害はなかった.Motor Activity Log(以下,MAL)はAmount of Use(以下,AOU)とQuality of Movement(以下,QOM)がともに0.85点であり,ADLでは麻痺手を使用できていなかった.FIMは73点(運動項目54点,認知項目19点)で,立位を経由する動作に介助を要した.主訴は「右手が動かない」であり,目標は「よくわからない」としか話さなかった.
【作業療法介入方針】介入方針を,「対象者が目標設定の意思決定に能動的に関与し,主体的にリハビリテーションを進められるようになること」とし,具体的には(i)5W1Hで目標の具体的なイメージをすり合わせる,(ii)目標となる作業に焦点を当てたアプローチと自主トレーニング(以下,自主トレ)を実施すること,とし適宜振り返りを行った.
【介入経過】17病日~:初回は面接にて,paper版ADOCを使用し,排泄の自立を目標とした.その後,目標を「トイレの見守りが恥ずかしいから,一人で,手すりを使って,下衣操作が出来ること」に修正し,下方へのリーチ訓練,麻痺手に対してIVESⓇ(オージー技研,東京)を用いた電気刺激療法を実施した.病棟では看護師見守りのもと,下衣操作訓練を実施した.
50病日~:目標を「袖通しをスマートに行いたいから,朝夕着替える時に,麻痺手で袖をつまんで,非麻痺手を通せること」とし,電気刺激療法や,つまみ動作訓練と更衣動作訓練を実施した.自室でもIVESⓇの子機を使用し,つまみ動作の自主トレを実施した.
85病日~:目標を「復職を目指したいから,麻痺手で,PCのタイピングができるようになる」ことを目的に,タイピング練習サイトを使用し,自室でも自主トレとして実施した.
【退院時(128病日)作業療法評価】BRSは上肢Ⅴ手指Ⅴ下肢Ⅴ,FMA-UEは60点,MALはAOU4.50点,QOM4.25点となった.院内のADL・IADLは自立し,屋外歩行も可能となった.FIMは124点(運動項目89点,認知項目35点)となり,ADLでは更衣の際の袖つまみや箸を使用した食事が可能となり麻痺手の使用頻度が増加した.国内の自宅に退院後,2か月後にベトナムに帰国した.
【考察】麻痺手使用の行動変容を促すためには自己効力感と報酬期待の相互作用が重要であるとされている(高橋,2017).今回,5W1Hで目標を具体化し,目標に焦点をあてた訓練と自主トレで積極的に麻痺手を使用したことが,機能改善と継続的な使用に繋がったと考えられる.また,「Why」により目標の理由付けをすることが能動性の担保に繋がったと考えられる.