第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-12] ポスター:脳血管疾患等 12

Sat. Nov 11, 2023 4:10 PM - 5:10 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-12-5] 画像トラッキングを活用した片麻痺者の動作分析と治療即時効果測定の検討

武田 幸治1, 山崎 弘嗣2, 中村 高仁2, 古澤 浩生3, 天草 弥生4 (1.リハビリテーション天草病院リハビリテーション部, 2.埼玉県立大学保健医療福祉学部 理学療法学科, 3.リハビリテーション天草病院リハビリ事業推進部, 4.リハビリテーション天草病院)

【はじめに】作業療法の臨床推論のプロセスの根幹は,対象者の作業課題を運動障害の観点から分析し,原因となる要素課題に対する治療戦略を立案することである.臨床的な作業・動作分析は,療法士の経験に基づいた主観的判断によって行われてきた.しかし昨今の画像処理技術の進展に伴って,姿勢推定や運動記録が簡便に行えるようになり,臨床的な動作分析の客観化が進むと期待される.本研究では,片麻痺者が行うリーチ動作の分析に基づいて実施した一回の治療セッションの前後で,画像トラッキング手法を活用して動作課題の変化を客観的に把握し,治療効果を検討した.
【方法】作業療法1回60分の介入の治療前後に,500mlの水入りペットボトルを麻痺側で把持した水平面リーチ動作(40cm×50cmの範囲内,前方,左右斜め,左右の4条件,各3往復)を上方2mおよび後方2mからスマートフォン(iPhoneX®,30Hz)を用いて撮影した.上方の動画情報よりペットボトルのキャップ位置の平面内変位をOpenCVの輪郭抽出およびトラッキングAPIを用いて数値化し軌道,速度の算出に用い,速度成分の主成分分析によって条件ごとの運動主軸の向きを求めた.手先速度の成分ごとに運動の滑らかさ指数(SPARC値)を算出した.また後方動画情報からリーチ開始姿勢を取る際の体幹の姿勢変化について深層学習姿勢推定プログラム(SLEAP12.9)を用いて追跡した.本研究について本人及び家族より書面による同意を得た.
【症例紹介】10代の女性,脳梗塞(左放線冠).発症後(Z+)20日でリハ目的にて当院へ転院.入院時Brs:上肢Ⅲ手指Ⅳ下肢Ⅳ,FIM79/126点(運動:44点 認知:35点),SIAS39点.
【介入時作業療法評価】評価治療介入初回(Z+31日).Brs:上肢Ⅲ手指Ⅳ下肢Ⅳ,FIM102/126点(運動:67点 認知:35点),SIAS44点,院内の移動は車椅子レベル,立ち上がり自立.歩行は監視レベルで可能であるが,麻痺側下肢のロッキングが著明.
【介入内容】
介入前のリーチ動作では,4方向とも運搬相で前腕回内位,到達点でのペットボトルの傾き修正を要していた.この前腕回内位での非効率な運動は,リーチ動作開始前の体幹の左側偏位により生じると考えられたため,体幹の定位,前腕回外を伴うリーチ動作への改善を目的として右側からの起き上がり,四つ這い,道具操作の介入を実施した.
【結果】
 上面映像のトラッキング結果では,介入前後でリーチ動作運搬相の運動主軸向きの速度は増大し,運動主軸に直交する向きの速度は減少傾向であった.SPARC値は4条件全てにおいて低下し運動の滑らかさが増大した.これに対応して,運搬相の前腕位置は回外位保持が可能となっていることが視覚的観察より確認できた.また後面トラッキング映像から,介入後はリーチ開始姿勢への準備動作で体幹左側変位速度増大や左肩甲帯挙上の減少が観察された.
【考察】
 本症例への介入効果としてリーチ動作時の運動主軸や速度変化および滑らかさ指標といった客観的評価からも改善を示す結果を得た.体幹後面トラッキング画像の客観情報から,介入前に臨床推論で着目した体幹左側偏位の印象は,準備動作時の体幹速度コントロール範囲の狭小を反映していたと考えられる.本実験で用いた画像トラッキングの精度は臨床現場での主観的評価の客観化に応用可能であり,今後も活用頻度を増やし臨床推論の高度化を図りたいと考える.