[PA-12-7] 調理における目標設定と家族との共有が自宅生活のイメージ構築に繋がった回復期病棟入院患者
【はじめに】
様々な作業療法(以下,OT)のプロセスモデルにおいてクライエントとOTの目標に対する相互理解が必要とされている(坂根ら, 2020).同居家族の影響が強い調理などのIADLについては,家族との目標の共有が特に重要である.しかし,家族とIADLの目標を共有する知見が十分に蓄積されているとは言い難い.本研究の目的は,調理訓練の目標の設定と共有をクライエントとその家族に行うことの効果を検証することである.尚,報告に際しクライアントには説明を行い書面にて同意を得ている.
【方法】
研究デザインは事例研究である.対象者はX月Y日に右被殻出血,右中大脳動脈閉塞を発症した60歳代の女性のA氏である.Y+2日に右被殻部の出血性脳梗塞を発症し,Y+49日に当院の回復期病棟へ転院となった.Brunnstrom Stageは左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴであり,左半側空間無視と注意機能障害を認めた.入院時の面談にてA氏より,「料理がしたいけどできるかな」と漠然とした不安があった.家族からも「母が家事をしないといけないけどどうしたらよいか」と不安が聞かれた.生活課題の明確化と本人・家族と共有すること自体を介入プロセスに組み込むために,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)とゴール達成スケーリング(以下,GAS)を用いた.
【結果】
初回のCOPMより意味のある作業として調理が挙がり,遂行度,満足度ともに1であった.調理における問題点は,注意機能障害の影響により火をつけながら片付けをするようなマルチタスクに声掛けが必要であった.目標は初回COPM実施の1週間後の外泊時に簡単な調理ができることとした.介入方針はA氏に目標を明確に意識してもらい,それを家族とも共有することとした.調理訓練のリハーサルを行いながらGASを作成し,+2;声かけなく見守りで実施ができる,+1;手伝いや声かけを求めることができる,0;適宜声かけにて見守りで実施ができる,−1;常に声かけが必要,−2;工程を手伝ってもらう,として本人と共有した.GASは調理における各工程での振り返りを行なった.また,外泊の直前に外泊時の注意点とGASの結果を家族と共有した.Y+82日に調理訓練を1回実施した.調理訓練では,他の料理にも代用の効くじゃがいもと玉ねぎの温野菜を作った.お湯を沸かす工程で火の付け忘れがあり,GASは−1評価となった.また茹でる工程で実際の茹で時間の確認があり,茹でる間の片付ける工程では次の行動の確認があったため+1評価となった.Y+86〜87日に外泊を行い,その後Y+89日にCOPMを再度実施した.その結果,遂行度が5,満足度が6と点数の向上が見られ,本人と家族から,「注意する点が明確だったため助かった」との発言が聞かれた. Y+112日に自宅退院となった.尚,COVID-19の影響により調理訓練は1回に制限されていた.
【考察】
COPMを用いることで,生活課題の明確化ができ,退院後の生活に対する漠然とした不安の軽減へ繋げることが可能になったと考えられる.また, GASを用いて調理訓練の達成度合いを事前にイメージすることで,注意機能低下における調理のリスクについてA氏自ら気づくことが可能となり,危機管理の構築に繋がったと考えられる.野村(2021)は,退院後にIADLがどの程度できそうか,入院中に対象者自身が予測する必要があると述べており,本研究を支持していると考えられる.A氏および家族と目標の共有を行なったことで,自宅生活のより明確なイメージ構築が可能になったと考えられる.しかし,退院後の生活調査について実施できなかったため,イメージ構築が退院後の生活にどのような影響があったかを明らかにすることが今後の課題である.
様々な作業療法(以下,OT)のプロセスモデルにおいてクライエントとOTの目標に対する相互理解が必要とされている(坂根ら, 2020).同居家族の影響が強い調理などのIADLについては,家族との目標の共有が特に重要である.しかし,家族とIADLの目標を共有する知見が十分に蓄積されているとは言い難い.本研究の目的は,調理訓練の目標の設定と共有をクライエントとその家族に行うことの効果を検証することである.尚,報告に際しクライアントには説明を行い書面にて同意を得ている.
【方法】
研究デザインは事例研究である.対象者はX月Y日に右被殻出血,右中大脳動脈閉塞を発症した60歳代の女性のA氏である.Y+2日に右被殻部の出血性脳梗塞を発症し,Y+49日に当院の回復期病棟へ転院となった.Brunnstrom Stageは左上肢Ⅴ,手指Ⅴ,下肢Ⅴであり,左半側空間無視と注意機能障害を認めた.入院時の面談にてA氏より,「料理がしたいけどできるかな」と漠然とした不安があった.家族からも「母が家事をしないといけないけどどうしたらよいか」と不安が聞かれた.生活課題の明確化と本人・家族と共有すること自体を介入プロセスに組み込むために,カナダ作業遂行測定(以下,COPM)とゴール達成スケーリング(以下,GAS)を用いた.
【結果】
初回のCOPMより意味のある作業として調理が挙がり,遂行度,満足度ともに1であった.調理における問題点は,注意機能障害の影響により火をつけながら片付けをするようなマルチタスクに声掛けが必要であった.目標は初回COPM実施の1週間後の外泊時に簡単な調理ができることとした.介入方針はA氏に目標を明確に意識してもらい,それを家族とも共有することとした.調理訓練のリハーサルを行いながらGASを作成し,+2;声かけなく見守りで実施ができる,+1;手伝いや声かけを求めることができる,0;適宜声かけにて見守りで実施ができる,−1;常に声かけが必要,−2;工程を手伝ってもらう,として本人と共有した.GASは調理における各工程での振り返りを行なった.また,外泊の直前に外泊時の注意点とGASの結果を家族と共有した.Y+82日に調理訓練を1回実施した.調理訓練では,他の料理にも代用の効くじゃがいもと玉ねぎの温野菜を作った.お湯を沸かす工程で火の付け忘れがあり,GASは−1評価となった.また茹でる工程で実際の茹で時間の確認があり,茹でる間の片付ける工程では次の行動の確認があったため+1評価となった.Y+86〜87日に外泊を行い,その後Y+89日にCOPMを再度実施した.その結果,遂行度が5,満足度が6と点数の向上が見られ,本人と家族から,「注意する点が明確だったため助かった」との発言が聞かれた. Y+112日に自宅退院となった.尚,COVID-19の影響により調理訓練は1回に制限されていた.
【考察】
COPMを用いることで,生活課題の明確化ができ,退院後の生活に対する漠然とした不安の軽減へ繋げることが可能になったと考えられる.また, GASを用いて調理訓練の達成度合いを事前にイメージすることで,注意機能低下における調理のリスクについてA氏自ら気づくことが可能となり,危機管理の構築に繋がったと考えられる.野村(2021)は,退院後にIADLがどの程度できそうか,入院中に対象者自身が予測する必要があると述べており,本研究を支持していると考えられる.A氏および家族と目標の共有を行なったことで,自宅生活のより明確なイメージ構築が可能になったと考えられる.しかし,退院後の生活調査について実施できなかったため,イメージ構築が退院後の生活にどのような影響があったかを明らかにすることが今後の課題である.