第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-12] ポスター:脳血管疾患等 12

2023年11月11日(土) 16:10 〜 17:10 ポスター会場 (展示棟)

[PA-12-8] ADOC‐Hを用いた麻痺側上肢使用の目標設定方法を症例の効力予期と結果予期を踏まえて工夫した一例

小林 由衣, 川口 悠子 (偕行会リハビリテーション病院リハビリテーション部)

【はじめに】
 近年,脳卒中による上肢麻痺は,使用意識の低下をもたらした結果,不使用となることが報告されている.そのことから麻痺側上肢を意識的に生活へ参加させる重要性に焦点が当てられる.また,麻痺側上肢の使用を促す方法論として成功体験による強化学習の有用性が示されている.成功体験を構築するための要素には,効果予期と結果予期がある.しかし,実際に臨床場面でこれらを意識して介入を行った報告は少ない.
 今回,上述した内容を満たすための手続きとして,Aid for Decision-making in Occupation Choice for Hand(以下ADOC-H)での課題設定の難易度を調整しながら麻痺側上肢の使用を促した.その結果,日常生活での麻痺側上肢の使用頻度の向上が図れたため報告する.なお今回の発表に際し,当院倫理審査委員会の承認と本人の同意を得ている.
【症例情報・入院時評価・ADOC-H使用までの経過】
 症例は,右被殻出血により左片麻痺を呈した50歳代の男性である.当院回復期へは39病日目に転入院となった.初期評価はBRS:上肢Ⅲ手指Ⅳ,FMA:27点,MAL:AOU,QOMとも0点であり,感覚は表在・深部覚ともほぼ脱失であった.高次脳機能面は,配分性注意障害と短期記憶障害が認められた.FIM81点(運動48点,認知33点)で病棟ADLは中等度~軽介助,移動は車椅子見守りであった.麻痺側上肢はおおまかに動く程度で,ADL上での使用に関しては消極的な発言が聞かれた.入院から2週間で車椅子でのADLが自立し,CI療法を開始した.CI療法後は,BRS:上肢Ⅴ手指Ⅵ,FMA:40点,MAL:AOU1.88点,QOM2.88点と上肢機能の向上が見られたが,依然として麻痺側上肢の使用に必要性を感じていない状態であったため,ADOC-Hを使用しADL内での使用定着を図ることとした.
【ADOC-H使用の経過】
 CI療法後,症例の効力予期は向上したが,結果予期はまだ低い状態であった.そのため,実動作で使用していくことが機能向上に繋がることを説明し,ADOC-Hのイラストを見ながら一緒に検討した.その結果,『顔を洗う』『お椀』を選択したため,まずはリハビリで動作練習をし,問題点を一緒に確認したのち,成功体験が積めるよう難易度を調整し,ADL上での目標を決定した.毎日のリハビリ介入時に設定した目標の結果を確認し,適宜動作の再練習・確認・難易度の修正を行った.症例はその後,設定した目標以外でも麻痺側上肢の使用を意識するようになった.
【結果】
 BRS:上肢Ⅴ手指Ⅵ,FMA:45点,MAL:AOU2.86点,QOM4.0点,感覚は表在・深部覚とも重度鈍麻であり,配分性注意障害は軽度残存していた.FIM114点(運動79点,認知35点)となり,ADLはT字杖を使用して自立した.麻痺側上肢は両手動作や移動時に鞄を持つなど生活上で使用している場面が観察された.
【考察】
 効力予期と結果予期を踏まえて症例の状態を把握し,ADOC-Hを使用し麻痺側上肢に対する目標設定の難易度調整を行なった結果,ADLでの麻痺側上肢の使用頻度が向上した.今回,ADOC-Hを使用したことで,症例自身がイラストから動作のイメージがしやすく,OTとしても症例へ動作練習を促しやすく協同が図れた.成功体験を積めるように難易度設定をしたことで,症例の結果予期の向上に繋がり,ADL上でも積極的・意欲的な麻痺側上肢使用に繋がったと考えられる.