[PA-2-10] 脳卒中片麻痺患者における上肢ロボットPABLOシステムの有用性:症例報告
【はじめに】
脳卒中治療ガイドライン2021では,ロボットを用いた上肢機能訓練を行うことは妥当であるとされている(推奨度B).しかし本邦でその介入報告は,特定の上肢ロボットが多く,PABLOシステム(タイロモーション社,以下PABLO)を用いた報告はない.今回,脳卒中片麻痺患者へPABLOを導入した結果,麻痺側上肢機能に改善を認めたため,その有用性について症例を通して報告をする.なお,報告に際して対象者の同意とA病院倫理審査委員会で承認を得ている.開示すべきCOIはない.
【症例紹介】
左視床出血を発症した70歳代の男性.発症後,30病日で回復期リハビリテーション病棟へ入棟.入棟時は,意識の低下があり, Functional Independence Measure(FIM)29点(運動項目17点)とADL全介助であった.75病日経過し,意識は改善,認知機能はMini Mental State Examination(MMSE)23点であり,右上下肢は重度運動麻痺,中等度感覚障害で右手は不使用となっていた.また右肩運動時やon elbowの荷重時にNumerical Rating Scale(NRS)6の疼痛があり,前腕への荷重が困難であった.主訴は「右腕に上手く体重がかけれない,机の上に右手を置いても落ちる」であった.
【方法】
大藤ら(2021),中村ら(2022)の報告を参考にし,段階的な上肢機能訓練においてPABLOを導入した.PABLOはモニター画面より視覚的なフィードバックを受けながら,モーションセンサーを用いて身体の部位を意図的に動かし,ゲーム感覚で繰り返し行うことで運動学習を図る機器である.しかしPassiveの機能は有さないため,IVES+(オージ技研株式会社)をPABLO導入前に実施し,三角筋前部,中部繊維の促通を図った.PABLOは前腕の重心移動を目的として,マルチボードを20分程度使用した.76病日より①通常訓練のみ→②IVES+→③Pablo→④積極的ADL訓練の順に,2週間ごとの約8週間で各プログラムを展開し,通常訓練(徒手,物品操作練習等を20分から40分)と並行して行った.①から④の各プログラム後に上肢運動麻痺とADLの評価を行った,評価はFugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE),Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU)とQuality of Movement(QOM),FIM(運動)を実施した.OT訓練は週5日,1日40分から60分で実施した.
【結果】
上肢運動麻痺はFMA-UE14→25→39→42点,MALのAOUとQOMは共に0.07→0.07→0.5→0.79点と変化した.肩荷重時痛はNRS6→6→2→2と改善し,on elbowで腹臥位が可能となった.またFIM(運動)24→29→36→43点となり,机上に前腕が保持できる,補助的にお茶碗を支えるなど意識的に右上肢の使用が可能となった.本人も「机に腕をのせておく感じがわかってきた」と記述した.
【考察】
PABLOを用いて,モニター画面による視覚情報と前腕の荷重といった体性感覚情報を一致させることで,肩関節周囲筋の運動単位の動員が増加し,肩関節の安定化に寄与したと考えられる.その結果,上肢運動麻痺の改善,疼痛の軽減,補助手の獲得に至ったと推測できる.
本報告では,段階的な上肢機能訓練としてPABLOを導入した結果,ADLで廃用手が補助手へ改善する可能性が示唆された.しかし1事例の検討であり,実用手に至らなかったことや,重度運動麻痺症例には自主訓練としての導入が困難であることなど課題は残るため,今後は事例数を重ねデータを蓄積していきたい.
脳卒中治療ガイドライン2021では,ロボットを用いた上肢機能訓練を行うことは妥当であるとされている(推奨度B).しかし本邦でその介入報告は,特定の上肢ロボットが多く,PABLOシステム(タイロモーション社,以下PABLO)を用いた報告はない.今回,脳卒中片麻痺患者へPABLOを導入した結果,麻痺側上肢機能に改善を認めたため,その有用性について症例を通して報告をする.なお,報告に際して対象者の同意とA病院倫理審査委員会で承認を得ている.開示すべきCOIはない.
【症例紹介】
左視床出血を発症した70歳代の男性.発症後,30病日で回復期リハビリテーション病棟へ入棟.入棟時は,意識の低下があり, Functional Independence Measure(FIM)29点(運動項目17点)とADL全介助であった.75病日経過し,意識は改善,認知機能はMini Mental State Examination(MMSE)23点であり,右上下肢は重度運動麻痺,中等度感覚障害で右手は不使用となっていた.また右肩運動時やon elbowの荷重時にNumerical Rating Scale(NRS)6の疼痛があり,前腕への荷重が困難であった.主訴は「右腕に上手く体重がかけれない,机の上に右手を置いても落ちる」であった.
【方法】
大藤ら(2021),中村ら(2022)の報告を参考にし,段階的な上肢機能訓練においてPABLOを導入した.PABLOはモニター画面より視覚的なフィードバックを受けながら,モーションセンサーを用いて身体の部位を意図的に動かし,ゲーム感覚で繰り返し行うことで運動学習を図る機器である.しかしPassiveの機能は有さないため,IVES+(オージ技研株式会社)をPABLO導入前に実施し,三角筋前部,中部繊維の促通を図った.PABLOは前腕の重心移動を目的として,マルチボードを20分程度使用した.76病日より①通常訓練のみ→②IVES+→③Pablo→④積極的ADL訓練の順に,2週間ごとの約8週間で各プログラムを展開し,通常訓練(徒手,物品操作練習等を20分から40分)と並行して行った.①から④の各プログラム後に上肢運動麻痺とADLの評価を行った,評価はFugl-Meyer Assessment-Upper Extremity(FMA-UE),Motor Activity Log(MAL)のAmount of Use(AOU)とQuality of Movement(QOM),FIM(運動)を実施した.OT訓練は週5日,1日40分から60分で実施した.
【結果】
上肢運動麻痺はFMA-UE14→25→39→42点,MALのAOUとQOMは共に0.07→0.07→0.5→0.79点と変化した.肩荷重時痛はNRS6→6→2→2と改善し,on elbowで腹臥位が可能となった.またFIM(運動)24→29→36→43点となり,机上に前腕が保持できる,補助的にお茶碗を支えるなど意識的に右上肢の使用が可能となった.本人も「机に腕をのせておく感じがわかってきた」と記述した.
【考察】
PABLOを用いて,モニター画面による視覚情報と前腕の荷重といった体性感覚情報を一致させることで,肩関節周囲筋の運動単位の動員が増加し,肩関節の安定化に寄与したと考えられる.その結果,上肢運動麻痺の改善,疼痛の軽減,補助手の獲得に至ったと推測できる.
本報告では,段階的な上肢機能訓練としてPABLOを導入した結果,ADLで廃用手が補助手へ改善する可能性が示唆された.しかし1事例の検討であり,実用手に至らなかったことや,重度運動麻痺症例には自主訓練としての導入が困難であることなど課題は残るため,今後は事例数を重ねデータを蓄積していきたい.