[PA-2-12] iPadを用いた「意味のある作業」の実践により,家族との交流が増加した生活期重度脳卒中者の一症例
【はじめに】生活期脳卒中者のQuality of Life(QOL)向上に寄与する事として患者自身が主体的に意味のある作業を実践する事が重要である(村仲ら,2021).今回,生活期の重度脳卒中者に対して,家族と関連した意味のある作業として,iPadを用いた家族とコミュニケーションの獲得を図った.結果,家族との交流が増加し,症例の希望感,孤独感に変化を認めたため,以下に報告する.なお,報告にあたっては,症例,家族に書面と口頭で趣旨を説明し,署名による同意を得た.
【症例紹介】40歳代男性(A氏),Y月Z日右橋出血を発症し,Z+211日に当院の療養病棟へ入院となった.左片麻痺,重度構音障害を呈しており,Brunnstrom Recovery Stageは上肢Ⅰ,手指Ⅰ,下肢Ⅲであり,基本動作は重度介助を要し,非麻痺側上肢,体幹に強い失調を認めた.観察より日常生活レベルでの会話の理解は可能であり,問いかけに対して,頷きで返答が可能であった.食事は胃瘻にて摂取しており,整容,更衣,排泄,入浴は全介助であった.車椅子座位は連続4時間可能であり,Functional Independence Measureは32点であった.介入当初,職員の声掛けに対する反応は乏しく塞ぎ込んでいる印象であった.家族構成は妻,2人の子供と4人暮らし.両親は遠方に暮らしており,積極的な援助は望めなかった.入院時の妻の希望はコミュニケーションの獲得であった.本症例の介入の効果判定にはWHO-5,日本語版Herth Hope Index(HHI),日本語版UCLA孤独感尺度(UCLA)を用いた.
【介入の基本方針】機能維持,向上の介入を継続しつつ,コミュニケーション獲得を第1とし,コミュニケーション獲得後にA氏の意向に沿った目標を設定する事とした.
【経過】Z+247日にパソコンを用いたコミュニケーションの獲得を試みた.5分で10文字程度の文章を打ち込む事が可能となったため,家族と文通を開始した.何度か文通を行う事で家族を気遣う文章を打つようになった.Z+411日に院内のiPadを使用したコミュニケーションを獲得し,目標を共有すると「家に帰りたい」と希望が聞かれた.そこでA氏と相談し「車椅子で自宅へ一時帰宅し,家族の時間を共有する」という目標を立て,他職種と協働で取り組んだ.WHO-5は17点,HHIは37点,UCLAは36点であった. Z+440日に理学療法士,作業療法士同行の元,自宅へ外出し,家族と再会した.A氏は父に髪の毛を切ってもらうなど,家族との時間を過ごした.外出後のWHO-5は18点,HHIは39点,UCLAは53点であった.また,外出前と比較して表情が豊かになり,職員へ積極的にコミュニケーションを取ろうとするなどの変化を認めた.iPadを使用したコミュニケーション練習は継続して実施し,Z+676日に自身のiPadを購入し,家族へLINEを送る事が可能となった.iPad購入後のWHO-5は18点,HHIは41点,UCLAは33点であった.
【考察】目標より「家族」と関連した作業活動がA氏にとっての幸せであると考え,A氏主体での目標を設定した.目標を自分の意志で選択する事はQOL向上に繋がる事が報告されており(千田,1997),A氏の望んだ「自宅で家族との時間の共有」という目標を達成する事が孤独感を軽減し,希望を強め,QOLを一定の水準に保つ事が出来たと考える.また,A氏は家族との関わりが増加する事で段階的に表情が豊かになり,発語が多くなるなど変化を認めた.UCLA,HHIの推移をみるとiPadでのコミュニケーションツールの獲得後に孤独感が軽減し,希望を見出す事が出来ている.この事より,生活期重度脳卒中者に対して主体性を持って意味のある作業に従事し,達成していく事が,孤独感を軽減し希望を持って生活する一助になると考える.
【症例紹介】40歳代男性(A氏),Y月Z日右橋出血を発症し,Z+211日に当院の療養病棟へ入院となった.左片麻痺,重度構音障害を呈しており,Brunnstrom Recovery Stageは上肢Ⅰ,手指Ⅰ,下肢Ⅲであり,基本動作は重度介助を要し,非麻痺側上肢,体幹に強い失調を認めた.観察より日常生活レベルでの会話の理解は可能であり,問いかけに対して,頷きで返答が可能であった.食事は胃瘻にて摂取しており,整容,更衣,排泄,入浴は全介助であった.車椅子座位は連続4時間可能であり,Functional Independence Measureは32点であった.介入当初,職員の声掛けに対する反応は乏しく塞ぎ込んでいる印象であった.家族構成は妻,2人の子供と4人暮らし.両親は遠方に暮らしており,積極的な援助は望めなかった.入院時の妻の希望はコミュニケーションの獲得であった.本症例の介入の効果判定にはWHO-5,日本語版Herth Hope Index(HHI),日本語版UCLA孤独感尺度(UCLA)を用いた.
【介入の基本方針】機能維持,向上の介入を継続しつつ,コミュニケーション獲得を第1とし,コミュニケーション獲得後にA氏の意向に沿った目標を設定する事とした.
【経過】Z+247日にパソコンを用いたコミュニケーションの獲得を試みた.5分で10文字程度の文章を打ち込む事が可能となったため,家族と文通を開始した.何度か文通を行う事で家族を気遣う文章を打つようになった.Z+411日に院内のiPadを使用したコミュニケーションを獲得し,目標を共有すると「家に帰りたい」と希望が聞かれた.そこでA氏と相談し「車椅子で自宅へ一時帰宅し,家族の時間を共有する」という目標を立て,他職種と協働で取り組んだ.WHO-5は17点,HHIは37点,UCLAは36点であった. Z+440日に理学療法士,作業療法士同行の元,自宅へ外出し,家族と再会した.A氏は父に髪の毛を切ってもらうなど,家族との時間を過ごした.外出後のWHO-5は18点,HHIは39点,UCLAは53点であった.また,外出前と比較して表情が豊かになり,職員へ積極的にコミュニケーションを取ろうとするなどの変化を認めた.iPadを使用したコミュニケーション練習は継続して実施し,Z+676日に自身のiPadを購入し,家族へLINEを送る事が可能となった.iPad購入後のWHO-5は18点,HHIは41点,UCLAは33点であった.
【考察】目標より「家族」と関連した作業活動がA氏にとっての幸せであると考え,A氏主体での目標を設定した.目標を自分の意志で選択する事はQOL向上に繋がる事が報告されており(千田,1997),A氏の望んだ「自宅で家族との時間の共有」という目標を達成する事が孤独感を軽減し,希望を強め,QOLを一定の水準に保つ事が出来たと考える.また,A氏は家族との関わりが増加する事で段階的に表情が豊かになり,発語が多くなるなど変化を認めた.UCLA,HHIの推移をみるとiPadでのコミュニケーションツールの獲得後に孤独感が軽減し,希望を見出す事が出来ている.この事より,生活期重度脳卒中者に対して主体性を持って意味のある作業に従事し,達成していく事が,孤独感を軽減し希望を持って生活する一助になると考える.