第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

Fri. Nov 10, 2023 12:00 PM - 1:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-2-19] 目標設定に難渋したBAD事例に対し,ADOC-HとGoal Attainment Scalingを用いて目標設定を行った介入経過

甲斐 慎介1, 竹林 崇2 (1.社会医療法人財団 池友会 福岡和白病院 リハビリテーション科, 2.大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科)

【はじめに】脳卒中後上肢運動麻痺に対する介入にConstraint-Induced Movement Therapy(以下,CI療法)があり,目標設定の合意が必要である(Morrisら,2006).しかし,目標設定には気分障害・否定的または不明瞭な予後等が障壁になると報告されている(Plantら,2016).今回,Branch Atheromatous Disease(以下,BAD)後に気分障害・否定的または不明瞭な予後から,目標設定が困難な事例を担当した.そこで,Goal Attainment Scaling(以下,GAS)を用いた結果,目標設定に進展を認めたため,経過を報告する.本報告は,事例から書面による同意を得た.
【対象・経過】対象:70歳代右利き女性.現病歴:左橋傍正中領域の脳梗塞(BAD)を発症し,2病日からリハビリ開始.病前生活:自立.職業歴:データ管理(管理職).12病日に当院回復期病棟へ転棟.Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目(以下,FMA)は10点, Motor Activity LogのAmount of Use(以下,MAL-AOU)とMotor Activity LogのQuality of Movement(以下,MAL-QOM)は0.07点,Simple Test for Evaluating Hand Function(以下,STEF)は右上肢0点,左上肢60点であった.
<第1期>電気刺激療法と自動介助運動を中心に行った時期(13~73病日)
「何も考えられない」などの発言があり,目標設定が困難であったため,介入は作業療法士が決定した.麻痺手に対し,電気刺激療法と各関節運動の自動介助運動を行った.
<第2期>目標を決定し,課題指向型練習を中心に行った時期(74~133病日)
麻痺手の予後が不明で否定的な反応が続いたが,評価結果をグラフで可視化して示すと反応が良かった.構造化面接で,Decision Aids(DA)のAid for Decision-making in Occupation Choice(以下,ADOC-H)とGASに興味を示したため,ADOC-Hを用い,箸で食事が摂取できる,両手で顔洗いができる,歯磨きができるを目標とした.目標到達を−2〜+2の5段階で数値化するGASで段階付けを行った.目標設定の項目に対し,CI療法を行った.目標設定に対し「次の目標がわかるからいいね」と話された.
<第3期>事例が問題解決に向けて主体的に関わった時期(134~175病日)
麻痺手使用時に,主体的に問題解決する場面が増えた.退院に向け更衣・入浴動作の確認を行った.屋内歩行はT字杖で自立となり,175病日に自宅退院となった.
【結果】各評価結果を13病日→43病日→74病日→103病日→134病日→174病日(GASは74病日→103病日→134病日→174病日)で示す.FMA:10→18→31→49→57→58,MAL-AOU:0.07→1.22→1.22→2.67→3.78→3.78,MAL-QOM:0.07→1.33→1.11→3.0→3.78→3.44,ST
EF(右上肢):0→0→0→8→51→70,STEF(左上肢):60→76→76→79→85→90,GAS(食事):−2→±0→+1→+1,GAS(顔洗い):−2→−1→±0→+1,GAS(歯磨き):−2→−1→±0→+1に改善した.GASに対し「手の調子に合わせられて良かった」と話された.
【考察】FMAのMinimal Clinically Important Difference(以下,MCID)は12.4点(Hiragamiら,2019),MAL-AOUは0.5点(van der Leeら,1999),MAL-QOMは1.0〜1.1点(Langら,2008)とされている.本事例の麻痺手の改善は,MCIDを超えたため,意味のある介入であったと考える.また,目標設定後にFMAを用いた予後予測の回復曲線(van der Vliet,2020)が変化したため,目標設定が麻痺手の改善に関与した可能性がある.さらに,Tomoriら(2012)は,ADOC-Hは治療の選択が視覚的に可視化できると報告している.また,Grantら(2014)は,GASによる目標設定が目標到達の理解を向上させることを報告している.これらの要因が本事例の経過の中で,影響を与えたのかもしれない.今回の事例においてのみADOC-H・GASを用いた目標設定が良好な結果に繋がった可能性がある.今後は複数例での検討が必要である.