第57回日本作業療法学会

講演情報

ポスター

脳血管疾患等

[PA-2] ポスター:脳血管疾患等 2

2023年11月10日(金) 12:00 〜 13:00 ポスター会場 (展示棟)

[PA-2-6] 脳卒中後に上肢の筋緊張の亢進がみられた症例に対するスプリント療法の効果

川田 佳央1,2, 関 一彦3 (1.東京ちどり病院, 2.東京都立大学大学院博士後期課程, 3.帝京平成大学健康医療スポーツ学部)

【はじめに】脳卒中患者などでは,手の屈曲拘縮が進行し手の管理やケアに苦労する場合も少なくない.今回, 脳卒中後に上肢の筋緊張の亢進がみられた症例に対して,スプリント療法を実施した.1ケ月間の介入により,関節可動域(以下ROM)と皮膚状態の改善を認めたため,以下に報告する.なお,報告にあたり,当院の『倫理委員会』の承認および,患者と家族の同意を得ている.また,開示すべきCOI関係にある企業等はない.【症例】93歳,女性.右小脳心原性脳塞栓症を発症し,寝たきり状態となる.発症2ケ月後に当院回復期リハビリテーション病棟に入院.初期評価は次の通りであった.Japan Coma Scale:Ⅰ-3, Functional Independence Measure: 18点,基本動作:全介助.右上下肢に目的的な運動はみられず,左上下肢の麻痺の程度はBrunnstrom stage:Ⅱ-Ⅱ-Ⅱ,Modified Ashworth Scale:両上肢共に 3.主なROM制限(Rt/Lt)は,手関節伸展-10°/15°,環指MP伸展-35°/-65°,環指PIP伸展-10°/-20°.ベッド上での安静時も両手関節および両手指は屈曲位となり,環指の指尖が手掌に触れていた.また,手掌や指間は湿潤し,垢や不快な汗の臭いから,手の管理や衛生上の問題もあった.【方法】一般的なスプリントでは対応が困難であったため,形状を円錐型(全長90mm.直径:橈側20mm,尺側45mm)とした.材料は熱可塑性プラスチックである,アクアプラスト(酒井医療製)を使用した.スプリントは手掌の尺側から挿入し,橈側先端をWebスペースに挟み,手掌全体でスプリントを包みこんだ.装着時,苦痛な様子はなく,環指の指尖は手掌から充分離れた.スプリントは終日装着し,定期的に発赤を含め皮膚の状態などを確認した.1ケ月後に再評価を行った.なお,スプリント療法の他,理学療法と作業療法ではそれぞれ1日1時間程度,ROM訓練と車椅子座位訓練を行った.【結果】ROMと手部の皮膚状態に改善がみられた.ROM(Rt/Lt)で改善がみられた箇所は,手関節伸展-5°/30°,環指MP伸展-25°/-40°であった.手掌は乾燥し,不快な臭いは軽減した.その他,手の管理やケアなどが容易になった.また,症例のスプリントの受入れも期間中安定していた.【考察】今回,脳卒中後に両上肢の筋緊張の亢進がみられた症例に対してスプリント療法を行ったところ,ROMと皮膚状態に改善を認めた.本田ら(2018)は,筋性拘縮の要因として,筋の伸張性の低下を挙げている.本症例においては,スプリントの装着により環指の指尖が手掌から離れ,その結果,手外筋が持続的に伸張され,手関節とMP関節のROMが改善したと考えられる.また,スプリント療法の効果として皮膚状態の改善が推察された.筆者は,過去にも同様のスプリントの効果について報告したが(川田ら,2017),本症例と同様に,皮膚の湿潤や汗臭が改善された.円錐型スプリントは作製が容易で適用となる拘縮手は少なくない.スプリントを装着することで手掌の通気性が確保され,汗による湿潤や臭いが軽減することが考えられる.一方,スプリント療法の効果として皮膚状態改善の報告は少ない.今後も臨床例を増やしながらROM改善だけでなく,皮膚状態や手の管理などの観点からも検討を重ねスプリント療法について推奨していきたい.