[PA-2-8] 脳卒中患者のトイレ動作(下衣の上げ動作)に影響を与える因子の解明と予後予測値の探索
【はじめに】わが国では,脳卒中など様々な疾患の発症により日常生活活動(以下,ADL)の能力が低下する高齢者が更に増加すると見込まれている(厚生労働省,2018).ADLの中でも特に,トイレ動作は自立できないことで,Quality of Life(Dhamoonら,2010),精神衛生および社会参加の低下(Feldeら,2012)を引き起こす.また,トイレ動作の自立は,病院からの在宅復帰や在院日数にも影響を与えている(Kushnerら,2018).そこで,我々はトイレ動作を22の動作に分類し,6段階でそれぞれの動作を評価するトイレ動作尺度(Toileting Behavior Evaluation:TBE)を開発した(東ら,2021).また,TBEに対してRasch分析を実施し,22項目のトイレ動作の項目難易度を明らかにし,「下衣を上げる」動作が最も難しいことを明らかにした(東ら,2022).しかし,「下衣を上げる」動作がどのような因子で妨げられているのかは明らかにされていない.本研究の目的は,脳卒中患者の「下衣を上げる」動作の自立を最も妨げている因子を解明し,予後予測や目標設定をする際に有用なカットオフ値を算出することである.
【方法】 対象者は脳血管障害と診断され急性期・回復期リハビリテーション病院(3施設)に入院中の患者58名(男性:28名女性:30名,平均年齢:76.2±9.9歳,右半球:31名,左半球:24名,両側:3名)であった.TBE,上肢,手指,下肢のBrunnstrome stage(Brs),Mini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J),Frontal Assessment Battery at bedside(FAB),Trail Making Test(TMT),視空間認知検査(線分の長さの弁別,視空間の認知と操作),筋力検査(握力(最大,最小),体幹屈伸筋力,膝関節伸展筋力(最大,最小)),脳卒中機能障害評価法(SIAS)の感覚評価(上肢触覚,下肢触覚,上肢位置覚,下肢位置覚)を実施した.なお,対象者の臨床像が乖離しないように全ての評価を10日以内に実施した.分析は,TBEの「下衣を上げる」動作の得点(0:介助群,1:自立群)を目的変数にし,その他の検査結果得点を説明変数として二項ロジスティクス回帰分析(増減法)を実施した.更に抽出された検査項目に対してReceiver Operating Characteristic Curve(以下,ROC 曲線) 分析を行い,曲線下面積(Area Under the Curve :以下,AUC )をよりカットオフ値を算出した.統計分析は,エクセル統計2019を用いた.本研究は所属機関の研究倫理委員会からの承認を得た後に,対象者の同意を得て実施した.また,本研究はJSPS科研費20K19076の助成を受けて実施した.
【結果】二項ロジスティクス回帰分析の結果,有意に抽出された項目(オッズ比)は,体幹屈曲筋力(1.62),MMSE-J(2.20),下肢触覚(0.03),上肢位置覚(67.66)であった.更にそれぞれのカットオフ値は体幹屈曲筋力で7.3kgf,MMSE-Jで26点,下肢触覚で2点(軽度低下),上肢位置覚で3点(ROMの1割未満の動きでも方向がわかる)であった.
【考察】トイレ動作の下衣の上げ下げの際には,立位および座位保持が必要となるため体幹機能が必要であると考えられる.また,下衣更衣では姿勢保持を行いながら下衣操作を同時に行う二重課題が必要(熊崎,2009)であるため,全般的認知機能を測定するMMSE-Jが抽出された可能性がある.麻痺側の感覚障害も更衣動作に影響を与える因子の一つと報告されており(Suzukiら,2006),麻痺側の感覚機能もトイレ動作に関連する因子であることが明らかになった.カットオフ値を参考に予後予測や訓練の目標設定を行える可能性が示唆された.今後は,サンプル数を増やしカットオフ値の精度を高めていく予定である.
【方法】 対象者は脳血管障害と診断され急性期・回復期リハビリテーション病院(3施設)に入院中の患者58名(男性:28名女性:30名,平均年齢:76.2±9.9歳,右半球:31名,左半球:24名,両側:3名)であった.TBE,上肢,手指,下肢のBrunnstrome stage(Brs),Mini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J),Frontal Assessment Battery at bedside(FAB),Trail Making Test(TMT),視空間認知検査(線分の長さの弁別,視空間の認知と操作),筋力検査(握力(最大,最小),体幹屈伸筋力,膝関節伸展筋力(最大,最小)),脳卒中機能障害評価法(SIAS)の感覚評価(上肢触覚,下肢触覚,上肢位置覚,下肢位置覚)を実施した.なお,対象者の臨床像が乖離しないように全ての評価を10日以内に実施した.分析は,TBEの「下衣を上げる」動作の得点(0:介助群,1:自立群)を目的変数にし,その他の検査結果得点を説明変数として二項ロジスティクス回帰分析(増減法)を実施した.更に抽出された検査項目に対してReceiver Operating Characteristic Curve(以下,ROC 曲線) 分析を行い,曲線下面積(Area Under the Curve :以下,AUC )をよりカットオフ値を算出した.統計分析は,エクセル統計2019を用いた.本研究は所属機関の研究倫理委員会からの承認を得た後に,対象者の同意を得て実施した.また,本研究はJSPS科研費20K19076の助成を受けて実施した.
【結果】二項ロジスティクス回帰分析の結果,有意に抽出された項目(オッズ比)は,体幹屈曲筋力(1.62),MMSE-J(2.20),下肢触覚(0.03),上肢位置覚(67.66)であった.更にそれぞれのカットオフ値は体幹屈曲筋力で7.3kgf,MMSE-Jで26点,下肢触覚で2点(軽度低下),上肢位置覚で3点(ROMの1割未満の動きでも方向がわかる)であった.
【考察】トイレ動作の下衣の上げ下げの際には,立位および座位保持が必要となるため体幹機能が必要であると考えられる.また,下衣更衣では姿勢保持を行いながら下衣操作を同時に行う二重課題が必要(熊崎,2009)であるため,全般的認知機能を測定するMMSE-Jが抽出された可能性がある.麻痺側の感覚障害も更衣動作に影響を与える因子の一つと報告されており(Suzukiら,2006),麻痺側の感覚機能もトイレ動作に関連する因子であることが明らかになった.カットオフ値を参考に予後予測や訓練の目標設定を行える可能性が示唆された.今後は,サンプル数を増やしカットオフ値の精度を高めていく予定である.