第57回日本作業療法学会

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ポスター

脳血管疾患等

[PA-3] ポスター:脳血管疾患等 3

Fri. Nov 10, 2023 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (展示棟)

[PA-3-13] 神社参拝という具体的な目標設定までに工夫を要した重度脳卒中事例

丸山 真輔1, 赤坂 竜一1, 岡野 昭夫2 (1.医療法人財団善常会 善常会リハビリテーション病院 リハビリテーション部, 2.中部大学 生命健康科学部作業療法学科)

【はじめに】重度脳卒中者は身体・認知・感情の障害だけでなく,自身への洞察力の低下により,医療従事者との間で目標設定に関して齟齬を生みやすく,目標の共有が重要な課題になる(Kate et al,2016).今回,重度脳卒中の事例に対し,面接を通じて重要な活動目標に焦点をあて,成功体験に向けて支援した結果,参加目標に繋がる支援を家族と取り組めたため報告する.本報告に際して,本人及び家族に同意を得ている.
【事例紹介】70代独居女性.入院前は生活全般が自立し,50代から神社参拝が趣味だった.X日,左アテローム血栓性脳梗塞を発症,X+19日に当院転院となった.病棟では車いすに座って自室で過ごし,移動する機会はトイレのみだった.退院後は娘宅へ転居が決まっていた.
【作業療法評価】BRS上肢Ⅲ・手指Ⅱ・下肢Ⅱ,SIAS触覚2・深部3,TMT-A:77秒,RBMT:8点,FIM:58点(トイレ移乗3点,動作2点)だった.トイレ動作では,足の位置が毎回異なり,姿勢の崩れに気付かず倒れることがあった.初回のADOCは,トイレ(満足度1),歩行,更衣を選択し「トイレを毎回手伝ってもらうのは申し訳ない.自分のことは自分でやりたい」と発言した.しかし,更衣練習時,できないことを体験すると練習を断ることがあった.また「頑張っているつもりだけど,なかなか思うように動かせない」と葛藤のような発言があった.
【介入方針】面接時はリハビリに前向きに取り組みたいという気持ちを示しながらも,失敗への回避行動や機能回復に対する不安な言動が見られた.一方で,トイレ動作は面接での重要度が高く,介助への心理的な抵抗感も強かったため,最も優先すべき活動目標であると判断し介入を行った.
【経過】
X+19~75日:失敗体験を回避するためリハビリ室での練習から始め,上達後に病棟内の練習に移行した.注意・記憶障害を考慮し足元に印をつけると,姿勢が崩れても気づけるようになった.また,病棟スタッフにも方法を共有し,トイレ動作の獲得を支援した.
X+76~127日:FIMのトイレ移乗・動作共に5になり,2回目のADOCでは,トイレ動作の満足度4となった.「トイレは一人でできてきました,乗り移りや着替えももっとやりたいです」と前向きな発言が聞かれた.
X+128~167日:3回目のADOCでは,宗教活動(満足度1)を選択し「神様の力が強いA神社に車いすでもいいから行きたい」と希望された.娘は「今までのルートは大変だし,段差の移動が心配」と口にされた.娘宅にて本人を交えた車いす練習やGoogle Mapで駐車場から最も近い参拝ルートの確認後,娘から「これならできそう」と発言が聞かれた. 
【結果】退院時は,BRS上肢Ⅲ・手指Ⅲ・下肢Ⅱ,SIAS触覚3・深部3,TMT-A:84秒,RBMT:11点,FIM:81点.ADOCの満足度はトイレ5,宗教活動3に向上し「直接参拝できてないから3点.練習で自信がついた」と話された.
【考察】今回,初回面接の結果からトイレと更衣に介入したが,事例は葛藤から練習を断ることがあった.重度片麻痺者の社会復帰支援には回復のみならず,生活を遂行することに焦点を転換する作業療法士の助言や退院後の生活に近い環境下で能力を試す機会が重要である(相原ら,2022).本事例でも,態度や発言を踏まえトイレに目標を絞り,失敗体験をさせないように支援したことから自信をつけ,他の生活行為にも関心が向くようになった.また,目標設定を行う上で見通しが希薄であることは阻害因子となり得る(石川,2021)ため,介入後期では神社参拝という事例が最も病前に大切にしていた参加目標を設定し,生活において心配だったトイレの見通しが立つようになったことが事例にとって重要な契機であった.